個人的に激推ししている「GROUNDLESS」10巻です。10巻も本当に面白かった。政治家と軍隊の関係性の苦悩を表現していたり、図らずも疫病の話が現実世界と同期していたり、戦闘を繰り返して歴戦の兵になっているダシア自警団の凄さが描写されたりしています。
10巻はユズハの故郷の話です。9巻はシュバーハンの話を掘り下げていたので、順番にメインキャラクターの背景を掘り下げている形になります。
シュバーハンは当初から活躍しまくってたし、ユズハも衛生兵として最初から活躍していたのでこの展開は嬉しいところ。狙撃兵ソフィアだけでなく、ダシア自警団の面々の過去を含めて苦悩が見えていくのが本当に興味深い。
そしてユズハは島民系の出自で、この世界では差別を受ける側の民族であり、今回の舞台はそのユズハの故郷なので、架空戦記としての国家形成設定を存分に発揮しています。
というのも、今回の政治家と軍隊の話というのは、大陸系にすり寄って島民区を維持し続ける被迫害側の政治の話と、その体制に不満を持つ軍隊派閥の話なのです。現実でもよく聞く話ですね。それが行き過ぎるとクーデターが起きたりとか。
ではなぜ文民統制が成り立つのか、なぜ武器を持たない政治家が軍隊に命令ができるのか、そういった疑問にダシア自警団がある種答えを出す話とも言えます。これは、ユズハの故郷アイアンクラウンがそうなってしまったことと、なぜダシアはそうはなっていないのかの国家形成も含んでいます。
なんだか難しい話になってしまったなあ。まあ、いずれにせよ、そういった思想の話、民族迫害も「GROUNDLESS」のテーマなので、そういったものが楽しめる方なら絶対に楽しめると思います。
今回もダシア自警団が訪れたアイアンクラウンで開放市民軍が蜂起して戦闘が起こってしまうのですが、そのあたりもダシア自警団とアイアンクラウンの防衛隊の違いが如実に出てくるのがやはり面白い。
幾度も訓練を重ねるよりも、数度の実戦を経験し死線を乗り越えた部隊の方が、実戦では結果を出してしまうというところとかが凄くリアルなのです。
「我々は…落ちこぼれと寄せ集めが運よく生き残っているだけのしょうもない部隊ですよ。」
ここまで読み続けている読者ならまさしく共感するはずなんですよこのセリフ。とんでもない戦いを切り抜けてきて、しかもその大半の成果はソフィアの狙撃で、しかしここまで生き残ってきたダシア自警団。初期メンバしかしっかりとした訓練などしておらず、半分近くがほぼ訓練なしで実戦投入されてきた背景を鑑みると、このセリフの通りなんですよね。ここまで生き残っているからこそ、実戦になると統率の取れた動きができる精鋭となっているわけですが。
「訓練のときとは比べ物にならないくらい 方針も指示も精神状態の作らせ方も、詳細で明確に行っている…」
やっぱり実戦になるとカッコいい。この命令もひとつひとつが丁寧で非常に緊張感を持って読めるのが「GROUNDLESS」の良さなんです。好きな人にはホントたまらないです。
そしてこの10巻の肝は、やはり前述した通り政治家と軍隊の話でしょう。
「我が区出身者を前衛に置く事は譲れませんぞ!!!そこは最低限、徹底してお願いしたい!!!」
アイアンクラウン自治区の防衛隊だけでは開放市民軍に敵わないと判断した区長は、即座にダシア自警団に協力を依頼し、その上ダシア自警団にいるアイアンクラウン出身者を前衛に出せと厚かましい依頼をするのです。
これは、ダシア自警団に手柄を取らせても、アイアンクラウン自治区としては自身の自治区出身者が開放市民軍を制圧したと放言したいがゆえですね。そうすることで大陸民に島民自治区として戦えるという牽制になると。
これ、言っていることは人でなしなんですが、ある意味政治手腕としてはそんなに間違っていないとは思います。ただ、作中ではこの区長は悪く書かれすぎかなという気はしますね。実態としてアイアンクラウン自治区の為ではなく区長自身の手柄という欲が強いからというのもありますけど。
「あなたはどれだけ恥知らずで他力本願なんです…!!!軍人の命もその仕事も…あなたのものではないんですよ!?」
この区長の態度に対して、やはりこの軍人の反応になるわけです。自分たちの力では開放市民軍を制圧できないことがわかってしまったアイアンクラウン防衛隊は、恥を偲んでダシア自警団に制圧を依頼するわけですから。
自分たちが無力だとわからされるのはキツイよなあ。おまけに損害が出たあとであり、しかもその原因はやはり区長の命令に起因してるというのがまた。
なぜ武力を持っている軍人が、武力を持たない政治家に道具のように命を扱われなければならないのか。その葛藤が10巻では炸裂します。
正直この区長は読んでてホント胸糞。人によっては読んでてイライラするかも。
これに似たような話どこかであったと思い返したら「ナポレオン-獅子の時代-」3巻でした。こっちは単に兵士とその上官の話ですが、無能な上官のせいで兵士が死ぬというのは、政治家におもちゃのように扱われる軍人という構図も同じようなものではないかと。
「戦死者の何割かは味方の撃った銃弾に殺された者だ 兵たちの間で実しやかにささやかれる噂によればその割合は四人にひとり」(ナポレオン-獅子の時代- 3巻より)
「理由もなく部下をイジメる上官や無能な将校はそうやって片付けられるんです」(ナポレオン-獅子の時代- 3巻より)
軍人の命を好きなように扱う政治家、同じ様なことをされるのでは。。。
というわけで相変わらず高水準の面白さを保っている「GROUNDLESS」10巻でした。ホント面白い、もっと売れてほしい。これが売れないのはおかしい。
ただちょっとキツイかなと思ったのは、ベースになる字が小さいことです。字が小さい上に文字が多いので読むのに苦労するかも。読み切るまで40分くらい掛かりました。
眠気覚め度 ☆☆☆☆☆
1巻の感想はこちら(隻眼の狙撃兵 - ミリタリーアクションの傑作)
2巻、3巻の感想はこちら (第三穀倉地域接収作戦 - 初侵攻、新兵、暗闇の戦い、問題山積みの接収作戦)
10巻はユズハの故郷の話です。9巻はシュバーハンの話を掘り下げていたので、順番にメインキャラクターの背景を掘り下げている形になります。
シュバーハンは当初から活躍しまくってたし、ユズハも衛生兵として最初から活躍していたのでこの展開は嬉しいところ。狙撃兵ソフィアだけでなく、ダシア自警団の面々の過去を含めて苦悩が見えていくのが本当に興味深い。
そしてユズハは島民系の出自で、この世界では差別を受ける側の民族であり、今回の舞台はそのユズハの故郷なので、架空戦記としての国家形成設定を存分に発揮しています。
というのも、今回の政治家と軍隊の話というのは、大陸系にすり寄って島民区を維持し続ける被迫害側の政治の話と、その体制に不満を持つ軍隊派閥の話なのです。現実でもよく聞く話ですね。それが行き過ぎるとクーデターが起きたりとか。
ではなぜ文民統制が成り立つのか、なぜ武器を持たない政治家が軍隊に命令ができるのか、そういった疑問にダシア自警団がある種答えを出す話とも言えます。これは、ユズハの故郷アイアンクラウンがそうなってしまったことと、なぜダシアはそうはなっていないのかの国家形成も含んでいます。
なんだか難しい話になってしまったなあ。まあ、いずれにせよ、そういった思想の話、民族迫害も「GROUNDLESS」のテーマなので、そういったものが楽しめる方なら絶対に楽しめると思います。
今回もダシア自警団が訪れたアイアンクラウンで開放市民軍が蜂起して戦闘が起こってしまうのですが、そのあたりもダシア自警団とアイアンクラウンの防衛隊の違いが如実に出てくるのがやはり面白い。
幾度も訓練を重ねるよりも、数度の実戦を経験し死線を乗り越えた部隊の方が、実戦では結果を出してしまうというところとかが凄くリアルなのです。
「我々は…落ちこぼれと寄せ集めが運よく生き残っているだけのしょうもない部隊ですよ。」
ここまで読み続けている読者ならまさしく共感するはずなんですよこのセリフ。とんでもない戦いを切り抜けてきて、しかもその大半の成果はソフィアの狙撃で、しかしここまで生き残ってきたダシア自警団。初期メンバしかしっかりとした訓練などしておらず、半分近くがほぼ訓練なしで実戦投入されてきた背景を鑑みると、このセリフの通りなんですよね。ここまで生き残っているからこそ、実戦になると統率の取れた動きができる精鋭となっているわけですが。
「訓練のときとは比べ物にならないくらい 方針も指示も精神状態の作らせ方も、詳細で明確に行っている…」
やっぱり実戦になるとカッコいい。この命令もひとつひとつが丁寧で非常に緊張感を持って読めるのが「GROUNDLESS」の良さなんです。好きな人にはホントたまらないです。
そしてこの10巻の肝は、やはり前述した通り政治家と軍隊の話でしょう。
「我が区出身者を前衛に置く事は譲れませんぞ!!!そこは最低限、徹底してお願いしたい!!!」
アイアンクラウン自治区の防衛隊だけでは開放市民軍に敵わないと判断した区長は、即座にダシア自警団に協力を依頼し、その上ダシア自警団にいるアイアンクラウン出身者を前衛に出せと厚かましい依頼をするのです。
これは、ダシア自警団に手柄を取らせても、アイアンクラウン自治区としては自身の自治区出身者が開放市民軍を制圧したと放言したいがゆえですね。そうすることで大陸民に島民自治区として戦えるという牽制になると。
これ、言っていることは人でなしなんですが、ある意味政治手腕としてはそんなに間違っていないとは思います。ただ、作中ではこの区長は悪く書かれすぎかなという気はしますね。実態としてアイアンクラウン自治区の為ではなく区長自身の手柄という欲が強いからというのもありますけど。
「あなたはどれだけ恥知らずで他力本願なんです…!!!軍人の命もその仕事も…あなたのものではないんですよ!?」
この区長の態度に対して、やはりこの軍人の反応になるわけです。自分たちの力では開放市民軍を制圧できないことがわかってしまったアイアンクラウン防衛隊は、恥を偲んでダシア自警団に制圧を依頼するわけですから。
自分たちが無力だとわからされるのはキツイよなあ。おまけに損害が出たあとであり、しかもその原因はやはり区長の命令に起因してるというのがまた。
なぜ武力を持っている軍人が、武力を持たない政治家に道具のように命を扱われなければならないのか。その葛藤が10巻では炸裂します。
正直この区長は読んでてホント胸糞。人によっては読んでてイライラするかも。
これに似たような話どこかであったと思い返したら「ナポレオン-獅子の時代-」3巻でした。こっちは単に兵士とその上官の話ですが、無能な上官のせいで兵士が死ぬというのは、政治家におもちゃのように扱われる軍人という構図も同じようなものではないかと。
「戦死者の何割かは味方の撃った銃弾に殺された者だ 兵たちの間で実しやかにささやかれる噂によればその割合は四人にひとり」(ナポレオン-獅子の時代- 3巻より)
「理由もなく部下をイジメる上官や無能な将校はそうやって片付けられるんです」(ナポレオン-獅子の時代- 3巻より)
軍人の命を好きなように扱う政治家、同じ様なことをされるのでは。。。
というわけで相変わらず高水準の面白さを保っている「GROUNDLESS」10巻でした。ホント面白い、もっと売れてほしい。これが売れないのはおかしい。
ただちょっとキツイかなと思ったのは、ベースになる字が小さいことです。字が小さい上に文字が多いので読むのに苦労するかも。読み切るまで40分くらい掛かりました。
眠気覚め度 ☆☆☆☆☆
1巻の感想はこちら(隻眼の狙撃兵 - ミリタリーアクションの傑作)
2巻、3巻の感想はこちら (第三穀倉地域接収作戦 - 初侵攻、新兵、暗闇の戦い、問題山積みの接収作戦)
GROUNDLESS : 10-君殺す事なかりせば- (アクションコミックス)
posted with AmaQuick at 2022.03.17
影待蛍太(著)
双葉社 2022-03-17T00:00:00.000Z
¥730
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ナポレオン ―獅子の時代― (3) (ヤングキングコミックス)
posted with AmaQuick at 2022.03.17
長谷川哲也(著)
少年画報社 2005-02-10T00:00:00.000Z
¥547
少年画報社 2005-02-10T00:00:00.000Z
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