経済

望郷太郎 6巻 - 貨幣経済が成立しても金の奴隷にはなるな

500年後の文化が新たに始まった世界で貨幣経済の起こりを体験出来る「望郷太郎」6巻です。ヤープト村自立の話と、いよいよマリョウの国に乗り込む話が展開されます。

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「俺達もお前らも………税を吸い取られるだけの奴隷だったんだ!!」

ルールを作るものが強いという事実そのままに、マリョウに支配され続けていたのがヤープト村です。その状態を解放すべく動いたのが太郎とパルの外部から来た人間であり、自らの貨幣ヤープトマーを作って村の中で独自の貨幣経済を作り出そうと邁進します。

その決着がいよいよ6巻でつくわけです。この流れは明確にマリョウへ対抗するという意思と共に、現代では金の奴隷とも言えた太郎の心の解放とも言えるでしょう。この太郎の価値観の変化というのが「望郷太郎」の面白いところのひとつだと思います。


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「昔……物を売って儲けるように……金を貸して利子で儲ける仕事があったんだ……」

ヤープト村を去る前に、ヤープトマーの使い方について指示をしていく太郎。その中には「金貸しとして利子を請求することを禁止する」というものが入っています。それが金を生むために最も有効なものであり、現代社会は銀行を始めとした金を持つものが強いという事実への警鐘でもあると明言する形です。

もっとも、太郎は既に金に執着することは正しい姿ではないと気づいており、金の奴隷になるのではなく金を使うべきだということに気づいています。だからこそ、このような「利子の禁止」を訴えるわけです。


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「しょせん石や鉄の塊を持ったって何も使えねぇよ!」

これが貨幣経済初期の真っ当な感性なのでしょう。金を持つことが目的ではなく、金を使って何をするかが大切だと気づいています。

もちろん、この時代は生きるのに精一杯であり、娯楽に金を掛けるということも少ないでしょう。金があっても食糧が流通してなければ生きていけないし、そんな状態では金よりも食糧が重要なってきます。死が現代社会よりも近い分だけ、金の価値が高くなりにくいんですね。

一方で我々の現代社会は物に溢れています。娯楽にも溢れています。そして何をするにも金が必要です。逆に言えば、誰よりも金を持つことが誰よりもいろいろなことが出来る手段になっています。そんな状態ですから、何をするにおいてもまず金が必要という思考になるのではないでしょうか。そしてそれが行き過ぎると、金のためになんでもしてしまう金の奴隷に陥るのではないでしょうか。

ただ、自分の考えとしては、この現代社会が金で成立している以上、金を稼ぐことが悪いこととは思っていません。楽して大量の金を得られるのであればするべきだと思っています。ただし、それは法に反しない範囲で。要は金の奴隷になるかどうかは、金を使う側次第なんじゃないかと。

そんな貨幣経済に対してひとつの問いかけをしてくれる「望郷太郎」はやはり面白いです。まさか現代社会ではなくて、文明崩壊後の社会で発生した貨幣経済の話をするなんてなあ。


話の方はこのあとマリョウに潜入し、パルの妹を探したりあれやこれやをしていくことになります。そしてマリョウの国ではヤープト村を奴隷状態にしていたように、既に立派な階級制度が成り立っていて金を持つものが強いとなっているのがまた面白い。

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「ここは上級 下級 奴隷 に分かれてて……法や国の仕組みは全て上級市民が決めてるらしい」

立派な封建制度になってるんです。これはまさしく歴史の文化の流れをそのまま表現してるのだと思います。最初はパル達と出会った様に物々交換から始まり、ヤープト村で興した貨幣経済、そして貨幣経済を基に封建制度を築き上げているマリョウ。実に歴史の流れそのままですね。

ということは、わかっていたことではありますが、現代社会で金の奴隷として経済を回してきた太郎が、経済の歴史をなぞる形で話が展開するのが「望郷太郎」なのです。単なる歴史の勉強ではなくて、それをある意味異世界転生の様な設定で一から表現していくのが本当に面白い。

ある意味このマリョウがひとつの大きな区切りとなるところで、あと何巻かは間違いなく続くのでしょうが、このマリョウ篇が終わるとどんな話になるんでしょうね。この先も本当に楽しみです。


眠気覚め度 ☆☆☆☆


5巻の感想はこちら(舞鶴太郎飛ぶ)


望郷太郎(6) (モーニングコミックス)
山田芳裕(著)
講談社 2022-02-22T00:00:00.000Z
5つ星のうち4.7
¥726


望郷太郎 5巻 - 舞鶴太郎飛ぶ

現代を突然襲った氷河期から500年、コールドスリープからただ1人目覚めた舞鶴太郎が、崩壊した文明社会から貨幣経済に触れていくある意味異世界転生な「望郷太郎」の5巻です。

最初の頃はほぼ文明などなかったこの作品ですが、人が集まる村に出会い、貨幣となるマーを使って統治を行う社会が登場しました。4巻が大きな転換期で、マーが完全に流通して市場が開かれる規模の村に到着しています。

しかしその村はマーを発行するマリョウの属領であり、重税に苦しんでいます。そこでマーの原石を大量に発見している太郎が、独自のマーを発行して自ら貨幣社会を作ってしまおうというのがこれまでの流れです。

5巻では肝心の独自マーを造幣して、村人に流通させる為に色々と画策しています。その為には夏祭りで独自マーを使用させ、村ではマリョウのマーよりも独自マーの方が価値があると思わせなければなりません。そのため、賭けの対象である力比べに出るパル。役者が揃ってきましたね。

しかし、独自マーに懐疑的な村人たち。半数ほどは今の重税である暮らしが良いと言い出します。この辺りは変化を好むものと維持を好むものというか、今の安定した生活を捨てて本当にいいのかという葛藤があるのでしょう。

現代でも同じようなことは起きますよね。つまらなくて給料は低いけど安定はしてる仕事のままでいるか、失敗するかもしれないけど思い切って転職するか。人間、安定を提供されたらそれを維持したくなるものなのです。特に、過去の生活が辛ければ辛いほどその傾向があるのではないでしょうか。

500年後の世界は文明が滅んでいるため、狩りや猟で生計を立てる生活です。毎日がサバイバルです。それが解消され、安定した寝床と食料が提供されるなら、中々それを手放す勇気は無いでしょう。同じ立場だったら自分もそうかも。

そんなことを尻目に、マリョウの八百長に抵抗しながら力比べで勝ち続けるパルはやっぱりカッコいい。最初に出会ったのがパルだったから気づいてなかったですが、安寧の暮らしを手に入れた人間と比べたらそりゃヒョウと戦ってたパルに適うわけないですね。パル最強。
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そしてマリョウに襲われながらも命からがら抜け出して村人の説得を続ける太郎です。しかし口頭だけでは迷っている村人たちが納得しません。一体どうやって納得させればいいものか。そこに、村の祭司がかつて祭司になるために実行したことの提案がされます。

それは高台から飛ぶこと。鳥を信仰している宗教に集う村人たちは、鳥に憧れ、鳥に近づいたものに敬意を払い信頼します。それを実際に太郎が実行してみせろと。

なるほどこれは、強い男に皆従う理論ですね。命を賭した行為をすることで最も凄い男だという証明をしようというのです。文明もほとんどない、実生活に根付いた鳥への宗教観。しかし誰も達成出来ない飛翔。口だけではなく行動で示すことが最も強い信頼を産むのでしょう。

こういう考えは現代でもあまり変わらないところがありそうです。有言実行カッコいい。生活を賭けて新貨幣に乗らなければならないのであれば、流通側も命を賭して問う覚悟であれと。

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そして太郎は飛びます。

この展開、泥臭い感じがしていいんですよね。元々現代では社長であり、金で人を物とも思わず使ってきた太郎。500年後の文明崩壊世界でパルを初めとした様々な人物に出会うことと、常に九死に一生を得るような生活を送ってきたことで、飛べるわけがなく無意味であるという合理的な考えから開放され、人間の魂同士でぶつかり合うようになったということではないかと。

すなわち、「望郷太郎」は貨幣経済の話のみならず、舞鶴太郎の成長譚であることが読み取れます。それにサバイバル要素やら戦争要素やらバトル要素やら駆け引き要素やら加わるのだからそれは面白いに決まってますね。

「望郷太郎」は名作「へうげもの」や怪作「度胸星」の著者である山田芳裕先生の作品です。宇宙に戦国に文明開化と描ける範囲が非常に広く脱帽です。続きも期待します。


眠気覚め度 ☆☆☆☆


6巻の感想はこちら(貨幣経済が成立しても金の奴隷にはなるな)



新装版 度胸星(1)
新装版 度胸星(1)
posted with AmaQuick at 2021.08.24
山田芳裕(著)
5つ星のうち4.5
¥660

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