「青野くんに触りたいから死にたい」の椎名うみ氏初期作品集「崖際のワルツ」です。四季賞受賞作の「ボインちゃん」、good!アフタヌーンで公開された2つの読切「セーラー服を燃やして」「崖際のワルツ」が収録されています。

「ボインちゃん」は過去に見たような見てないような記憶なのですが、「セーラー服を燃やして」「崖際のワルツ」は当時グフタで読切を読んで絶賛した記憶があります。

全体を通して、まず他の漫画には無いような独特の空気感があります。この時点で既に読み手を選ぶでしょう。

その空気感を受け入れることが出来れば、そこは既に椎名うみワールド、この世界観にひたすら包まれることで、得も言われぬ心の淀みを刺激される感覚に陥るのではないでしょうか。


■ボインちゃん
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他の子よりもおっぱいが大きくなるのが早くて、それを気にしている女の子の物語。

同級生の子達の無邪気なからかいがこの子にとってはひたすら怖くて嫌なことで、その嫌悪感を描いたお話といったところでしょうか。

子どもたちは全然悪意は無く、それが相手を傷つけていることには気づかず、そしてこの主人公もまた同じことを自分の母親にしてしまったことに気づくけれども、その先にはどういった思いが繋がるのだろうか。

悪意の無い行為が人を傷つけることがグサグサ刺さってくる作品。もしかしたら自分も知らずに人を傷つけているのかもしれない。



■セーラー服を燃やして
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特に理由も無く、なんとなく学校に行く気がなくなって行かなくなった女の子に、執拗にその原因を聞こうとするぶっ壊れた教師を代表とした理不尽のお話。

行かなくなった理由が無いってのは確かに理解し難いのだけど、「理由が無いわけがない、いじめられているのだろう」と思い込みで決めつけて、連日家まで押しかける教師が本当に怖い。「青野くんに触りたいから死にたい」のホラー表現の一端はここから始まっているように思える。

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このシーン、ゾクッとすると同時に金田一思い出したw

話を聞いてくれない相手が怖いというのがしみじみとわかる作品。誰も理解してくれない、話も聞いてくれない、あなたはこうなんだろうと決めつけてこられる、ホラーだよこれは。



■崖際のワルツ
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作品の表題にあるように、この1冊の代表作。超大根の女の子と、演劇の力はあるけど言い方がきつい女の子がペアで白雪姫を演じるお話。

その白雪姫もただの白雪姫ではなくて、鏡と姫を両方こなすことでまるで姫と継母が会話をしているように見せるのが非常に上手い。

大根演技が白雪姫の異様さを際立たせていて、単なる白雪姫では説明ができない次元の白雪姫を演じることで、その場の人間全員を一気に虜にしていく姿が本当に素晴らしい。

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大根役者の異様さと、それを利用した芝居の面白さを演出することが、狂気の奈落が迫る理性の崖際で踊るワルツであると作中で解説して締めるのがこの「崖際のワルツ」です。

まさしく漫画表現として、その場を飲み込む面白さがあります。ただ白雪姫の演劇をしているだけなのにグイグイ引き込まれ、いつの間にか最後まで読んでしまいます。是非とも読んでほしいお話。


これらの作品を発表後「青野くんに触りたいから死にたい」の連載が開始されるわけですが、デビュー直後からこのような作品を描けるのですから、初連載が面白いものであるのも納得できます。


眠気覚め度 ☆☆☆☆


崖際のワルツ 椎名うみ作品集 (アフタヌーンコミックス)
椎名うみ(著)
講談社 2017-08-23T00:00:00.000Z
5つ星のうち4.7
¥660