戦争

GROUNDLESS : 10巻 -君殺す事なかりせば- - 政治家と軍人

個人的に激推ししている「GROUNDLESS」10巻です。10巻も本当に面白かった。政治家と軍隊の関係性の苦悩を表現していたり、図らずも疫病の話が現実世界と同期していたり、戦闘を繰り返して歴戦の兵になっているダシア自警団の凄さが描写されたりしています。

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10巻はユズハの故郷の話です。9巻はシュバーハンの話を掘り下げていたので、順番にメインキャラクターの背景を掘り下げている形になります。

シュバーハンは当初から活躍しまくってたし、ユズハも衛生兵として最初から活躍していたのでこの展開は嬉しいところ。狙撃兵ソフィアだけでなく、ダシア自警団の面々の過去を含めて苦悩が見えていくのが本当に興味深い。

そしてユズハは島民系の出自で、この世界では差別を受ける側の民族であり、今回の舞台はそのユズハの故郷なので、架空戦記としての国家形成設定を存分に発揮しています。

というのも、今回の政治家と軍隊の話というのは、大陸系にすり寄って島民区を維持し続ける被迫害側の政治の話と、その体制に不満を持つ軍隊派閥の話なのです。現実でもよく聞く話ですね。それが行き過ぎるとクーデターが起きたりとか。

ではなぜ文民統制が成り立つのか、なぜ武器を持たない政治家が軍隊に命令ができるのか、そういった疑問にダシア自警団がある種答えを出す話とも言えます。これは、ユズハの故郷アイアンクラウンがそうなってしまったことと、なぜダシアはそうはなっていないのかの国家形成も含んでいます。

なんだか難しい話になってしまったなあ。まあ、いずれにせよ、そういった思想の話、民族迫害も「GROUNDLESS」のテーマなので、そういったものが楽しめる方なら絶対に楽しめると思います。


今回もダシア自警団が訪れたアイアンクラウンで開放市民軍が蜂起して戦闘が起こってしまうのですが、そのあたりもダシア自警団とアイアンクラウンの防衛隊の違いが如実に出てくるのがやはり面白い。

幾度も訓練を重ねるよりも、数度の実戦を経験し死線を乗り越えた部隊の方が、実戦では結果を出してしまうというところとかが凄くリアルなのです。

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「我々は…落ちこぼれと寄せ集めが運よく生き残っているだけのしょうもない部隊ですよ。」

ここまで読み続けている読者ならまさしく共感するはずなんですよこのセリフ。とんでもない戦いを切り抜けてきて、しかもその大半の成果はソフィアの狙撃で、しかしここまで生き残ってきたダシア自警団。初期メンバしかしっかりとした訓練などしておらず、半分近くがほぼ訓練なしで実戦投入されてきた背景を鑑みると、このセリフの通りなんですよね。ここまで生き残っているからこそ、実戦になると統率の取れた動きができる精鋭となっているわけですが。

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「訓練のときとは比べ物にならないくらい 方針も指示も精神状態の作らせ方も、詳細で明確に行っている…」

やっぱり実戦になるとカッコいい。この命令もひとつひとつが丁寧で非常に緊張感を持って読めるのが「GROUNDLESS」の良さなんです。好きな人にはホントたまらないです。


そしてこの10巻の肝は、やはり前述した通り政治家と軍隊の話でしょう。

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「我が区出身者を前衛に置く事は譲れませんぞ!!!そこは最低限、徹底してお願いしたい!!!」

アイアンクラウン自治区の防衛隊だけでは開放市民軍に敵わないと判断した区長は、即座にダシア自警団に協力を依頼し、その上ダシア自警団にいるアイアンクラウン出身者を前衛に出せと厚かましい依頼をするのです。

これは、ダシア自警団に手柄を取らせても、アイアンクラウン自治区としては自身の自治区出身者が開放市民軍を制圧したと放言したいがゆえですね。そうすることで大陸民に島民自治区として戦えるという牽制になると。

これ、言っていることは人でなしなんですが、ある意味政治手腕としてはそんなに間違っていないとは思います。ただ、作中ではこの区長は悪く書かれすぎかなという気はしますね。実態としてアイアンクラウン自治区の為ではなく区長自身の手柄という欲が強いからというのもありますけど。

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「あなたはどれだけ恥知らずで他力本願なんです…!!!軍人の命もその仕事も…あなたのものではないんですよ!?」

この区長の態度に対して、やはりこの軍人の反応になるわけです。自分たちの力では開放市民軍を制圧できないことがわかってしまったアイアンクラウン防衛隊は、恥を偲んでダシア自警団に制圧を依頼するわけですから。

自分たちが無力だとわからされるのはキツイよなあ。おまけに損害が出たあとであり、しかもその原因はやはり区長の命令に起因してるというのがまた。

なぜ武力を持っている軍人が、武力を持たない政治家に道具のように命を扱われなければならないのか。その葛藤が10巻では炸裂します。

正直この区長は読んでてホント胸糞。人によっては読んでてイライラするかも。

これに似たような話どこかであったと思い返したら「ナポレオン-獅子の時代-」3巻でした。こっちは単に兵士とその上官の話ですが、無能な上官のせいで兵士が死ぬというのは、政治家におもちゃのように扱われる軍人という構図も同じようなものではないかと。

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「戦死者の何割かは味方の撃った銃弾に殺された者だ  兵たちの間で実しやかにささやかれる噂によればその割合は四人にひとり」(ナポレオン-獅子の時代- 3巻より)


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「理由もなく部下をイジメる上官や無能な将校はそうやって片付けられるんです」(ナポレオン-獅子の時代- 3巻より)

軍人の命を好きなように扱う政治家、同じ様なことをされるのでは。。。


というわけで相変わらず高水準の面白さを保っている「GROUNDLESS」10巻でした。ホント面白い、もっと売れてほしい。これが売れないのはおかしい。

ただちょっとキツイかなと思ったのは、ベースになる字が小さいことです。字が小さい上に文字が多いので読むのに苦労するかも。読み切るまで40分くらい掛かりました。


眠気覚め度 ☆☆☆☆☆


1巻の感想はこちら(隻眼の狙撃兵 - ミリタリーアクションの傑作)
2巻、3巻の感想はこちら (第三穀倉地域接収作戦 - 初侵攻、新兵、暗闇の戦い、問題山積みの接収作戦)


GROUNDLESS : 10-君殺す事なかりせば- (アクションコミックス)
影待蛍太(著)
双葉社 2022-03-17T00:00:00.000Z
5つ星のうち5.0
¥730


ナポレオン ―獅子の時代― (3) (ヤングキングコミックス)
長谷川哲也(著)
少年画報社 2005-02-10T00:00:00.000Z
5つ星のうち4.5
¥547


日本三國 - 傑作になりうるポテンシャルを存分に秘めた怪作に酔いしれろ

オンラインで1話を読んだ瞬間にこれはとんでもない作品になると確信した「日本三國」1巻が遂に発売されました。Webで連載は追っているけれども待ちわびました。

ここで1話と最新話が読めます
なお、コミック1巻には3話まで収録されています。1話の時点で80ページ強あるので1話毎がものすごいボリュームです。


それでは完全オリジナルストーリー架空戦記のため、まずはあらすじをAmazonから引用してみます。
文明崩壊後の近未来、再び戦国時代と化した日本を再統一すべく一人の青年が立ち上がった。
名は三角青輝。後に奇才軍師と称される彼の伝説が、いま始まる!!
ものすごく簡潔。正直これで説明を終わらせるのはもったいないです。が、きちんと書こうとすると絶対に理解できないくらい設定が深いのでそれも無謀。なのでまずは1話を読んでください


簡単に書くと、今から150年ほど後の日本のお話です。とりあえず日本は滅亡、文明は大幅退化、人口は1/10になって、3つの国家が群雄割拠する時代です。

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もうこの時点で自分の琴線にビンビン触れまくりなんですよ。元々戦争ものとか戦記物とか好物で、それに伴う政治だったり宗教だったりの考え方とか好きなんです。だから歴史ものが好きだったり。例えば「蒼天航路」とか「GROUNDLESS」とか「皇国の守護者」とかですね。

で、それが架空といえど日本が舞台で、しかも極めてシビアな世界観で描かれるのだからそりゃ食いつかないわけがないってもんですよ。

おまけに読み始めると、主人公三角青輝のキャラが非常に立っていて、好みが分かれるだろうけども自分は好きな部類のキャラなんです。これだけで魅力ビンビン。1話を読んだ時、その凄さ、面白さに衝撃を受け、これは間違いなく傑作になるだろうと確信しました。

まあ、戦記物と言いつつ、まだ実際の戦争自体は始まっていないのでそこはどうなることやらというところではありますが。今連載でやってる時点までも、まだ状況や設定説明が続いており、これから盛り上がるための準備をしているところと言えます。

しかし、その準備の時点でこれだけの面白さを放っているということが、この「日本三國」の凄さがわかるのではないでしょうか?

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「そう!あんたの知識を活かせば、辺境を平定し、三国時代を終わらすことができるかもしれん!日本再統一も夢じゃないで!」


面白さの下地になっているのが、入念な歴史設定と魅力溢れるキャラ造形だと思うのです。

「日本三國」は既に日本が崩壊して3つの国家「大和」「武凰」「聖夷」になっているわけですが、当然そこに至るまでの「日本三國」ならではの歴史があります。おそらく、それらの国家成立までの背景だけで1つずつの作品が起こせる設定があるのでしょう。その時点で、この作品の設定、物語を構成する深みが凄いと言えるのではないでしょうか。

しかもこの作品の凄いところは、そういった背景を丁寧に説明せずに済ませていることだと思います。というのも、こういった架空戦記ものは、得てしてシナリオを説明する為に詳細な設定を作中で語ることが多いのではないかと。

で、「日本三國」はそれを説明口調ですることがなく、作中のキャラが今の政治や日本について語ることでそれを済ませてしまっているのです。もちろん、中央権力が持つ情報のような詳しい政治事情はまだ語られません。それは主人公三角青輝も知る由がありませんし、そもそも三角青輝の話であるのでそこに触れる必要性が無いためでしょう。

むしろ、一地方の人間である三角青輝が、この時代を今までどう生きてきて、どのような人間で、その能力をどのように活かしていくのか、その説明に注力しています。

つまり、極めて深い下地設定があるにも関わらず、読者には三角青輝の人生を追わせることに終始していると言えるのではないかと。このような架空戦記は設定を作ったがあまり全てを語りたくなる作品もあるような気がするのですが、それはあくまで話を盛り上げるためのソースであり、メインディッシュは三角青輝の話となるわけです。

ここまで書いて思い返すと、先程上げた好きな作品もキャラが非常に立っていたなあと。やっぱり話の面白さを大きく決めるのは魅力的なキャラクターということなのでしょう。

そういう意味では、1巻で出てきた三角青輝、阿左馬芳経、龍門光英といったメインキャラクターは極めてキャラが立っています。これはそれぞれしっかりと人気が出るだろうなあ。


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「本気でこの世を変えるために、ここに来たんです。」


うーん、色々書いてみたのですが、正直自分の力ではこの作品の面白さをきちんと伝える自信が全く出てきません。これはあれこれ語るよりも、1話を見た方が絶対に早いです。1話を見て合わない人には絶対合わないだろうし、合う人には抜群に合うのではないかと。

それくらい魅力的に面白く、1話で三角青輝というものを綺麗に描かれています。1巻に収録されている2話3話は三角青輝の魅力を描きつつ、阿左馬芳経と龍門光英の紹介をしてるだけとも言えます。それだけなのにこれだけの面白さを読まさせてくれるのはやはり相当凄いと思うのだけど。


何度も書きますが、現時点では間違いなく傑作になりうるポテンシャルを持っている作品だと確信しています。この作品を連載開始時点から追えているのが非常に嬉しい。続きが何よりも待ち遠しい「日本三國」、もしもまだ知名度が無いのであれば、存分に広めていきたいところです。


眠気覚め度 ☆☆☆☆☆


日本三國(1) (裏少年サンデーコミックス)
松木いっか(著)
小学館 2022-03-10T00:00:00.000Z
5つ星のうち5.0
¥693


望郷太郎 6巻 - 貨幣経済が成立しても金の奴隷にはなるな

500年後の文化が新たに始まった世界で貨幣経済の起こりを体験出来る「望郷太郎」6巻です。ヤープト村自立の話と、いよいよマリョウの国に乗り込む話が展開されます。

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「俺達もお前らも………税を吸い取られるだけの奴隷だったんだ!!」

ルールを作るものが強いという事実そのままに、マリョウに支配され続けていたのがヤープト村です。その状態を解放すべく動いたのが太郎とパルの外部から来た人間であり、自らの貨幣ヤープトマーを作って村の中で独自の貨幣経済を作り出そうと邁進します。

その決着がいよいよ6巻でつくわけです。この流れは明確にマリョウへ対抗するという意思と共に、現代では金の奴隷とも言えた太郎の心の解放とも言えるでしょう。この太郎の価値観の変化というのが「望郷太郎」の面白いところのひとつだと思います。


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「昔……物を売って儲けるように……金を貸して利子で儲ける仕事があったんだ……」

ヤープト村を去る前に、ヤープトマーの使い方について指示をしていく太郎。その中には「金貸しとして利子を請求することを禁止する」というものが入っています。それが金を生むために最も有効なものであり、現代社会は銀行を始めとした金を持つものが強いという事実への警鐘でもあると明言する形です。

もっとも、太郎は既に金に執着することは正しい姿ではないと気づいており、金の奴隷になるのではなく金を使うべきだということに気づいています。だからこそ、このような「利子の禁止」を訴えるわけです。


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「しょせん石や鉄の塊を持ったって何も使えねぇよ!」

これが貨幣経済初期の真っ当な感性なのでしょう。金を持つことが目的ではなく、金を使って何をするかが大切だと気づいています。

もちろん、この時代は生きるのに精一杯であり、娯楽に金を掛けるということも少ないでしょう。金があっても食糧が流通してなければ生きていけないし、そんな状態では金よりも食糧が重要なってきます。死が現代社会よりも近い分だけ、金の価値が高くなりにくいんですね。

一方で我々の現代社会は物に溢れています。娯楽にも溢れています。そして何をするにも金が必要です。逆に言えば、誰よりも金を持つことが誰よりもいろいろなことが出来る手段になっています。そんな状態ですから、何をするにおいてもまず金が必要という思考になるのではないでしょうか。そしてそれが行き過ぎると、金のためになんでもしてしまう金の奴隷に陥るのではないでしょうか。

ただ、自分の考えとしては、この現代社会が金で成立している以上、金を稼ぐことが悪いこととは思っていません。楽して大量の金を得られるのであればするべきだと思っています。ただし、それは法に反しない範囲で。要は金の奴隷になるかどうかは、金を使う側次第なんじゃないかと。

そんな貨幣経済に対してひとつの問いかけをしてくれる「望郷太郎」はやはり面白いです。まさか現代社会ではなくて、文明崩壊後の社会で発生した貨幣経済の話をするなんてなあ。


話の方はこのあとマリョウに潜入し、パルの妹を探したりあれやこれやをしていくことになります。そしてマリョウの国ではヤープト村を奴隷状態にしていたように、既に立派な階級制度が成り立っていて金を持つものが強いとなっているのがまた面白い。

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「ここは上級 下級 奴隷 に分かれてて……法や国の仕組みは全て上級市民が決めてるらしい」

立派な封建制度になってるんです。これはまさしく歴史の文化の流れをそのまま表現してるのだと思います。最初はパル達と出会った様に物々交換から始まり、ヤープト村で興した貨幣経済、そして貨幣経済を基に封建制度を築き上げているマリョウ。実に歴史の流れそのままですね。

ということは、わかっていたことではありますが、現代社会で金の奴隷として経済を回してきた太郎が、経済の歴史をなぞる形で話が展開するのが「望郷太郎」なのです。単なる歴史の勉強ではなくて、それをある意味異世界転生の様な設定で一から表現していくのが本当に面白い。

ある意味このマリョウがひとつの大きな区切りとなるところで、あと何巻かは間違いなく続くのでしょうが、このマリョウ篇が終わるとどんな話になるんでしょうね。この先も本当に楽しみです。


眠気覚め度 ☆☆☆☆


5巻の感想はこちら(舞鶴太郎飛ぶ)


望郷太郎(6) (モーニングコミックス)
山田芳裕(著)
講談社 2022-02-22T00:00:00.000Z
5つ星のうち4.7
¥726


クレイジーフードトラック 3巻 - メタルマックスのグルメワールドここに完結

メタルマックスの様に砂漠と廃墟が広がる世界で、獲れたてでピチピチの奇形魚のような素材を食事に仕立て上げて美味しそうに食べながらトラックに積んだ主砲をぶっ放す「クレイジーフードトラック」最終3巻です。

惜しいなあ、面白かったからもうちょっと読みたかったなあというのが率直な感想です。

3巻は最初の寿司の話以降ずっと話を畳みに掛かっていて、ゴードンの過去やアリサの出生の話が明かされていきます。

肝心の食事も砂漠に存在する野生のニワトリが相手なので定番のフライドチキンや鶏肉料理がメインであり、食材としての目新しさはありません。食事よりも、世界観と設定の説明に終始して結末に向かっています。

そのあたりは2巻までほぼ語られておらず、しっかりと伏線も回収していったので、ああこの作品は間違いなくこの3巻で終わってしまうのだなと寂しい気持ちもあったり。単発でもいいから新たな食材ネタとか今後も見てみたいところ。


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トラックに主砲がついてる背景も語られます。やっぱこれ完全にメタルマックスだよなあ。野生のバスとかいう何回聞いても理解出来ない設定作ったメタルマックスは正義よなあ。野生のバスがありえるならフードトラックに主砲ついてても何も違和感ないもの。


そうして話をきっちり畳んだ「クレイジーフードトラック」なんですが、その結末は賛否両論ありそうな気がしますね。

個人的にはちょっとこの展開が意外過ぎて、ええええええぇぇぇぇぇぇッ、というのが最初の感想でした。こういう地域を移動しながら何かをするだけというタイプの作品で結末がこうなるのはあまり見たことないかも。


というわけで、料理がとても魅力的だし、最終巻はシナリオ重視でしっかり話を畳んだ「クレイジーフードトラック」でした。やっぱりもうちょっと読みたかったなあ。



眠気覚め度 ☆☆☆ 


2巻までの感想はこちら (メタルマックスの世界観で大暴れするフードトラック)


クレイジーフードトラック 3巻(完) (バンチコミックス)
大柿ロクロウ(著)
新潮社 2022-02-09T00:00:00.000Z
5つ星のうち4.4
¥614


望郷太郎 5巻 - 舞鶴太郎飛ぶ

現代を突然襲った氷河期から500年、コールドスリープからただ1人目覚めた舞鶴太郎が、崩壊した文明社会から貨幣経済に触れていくある意味異世界転生な「望郷太郎」の5巻です。

最初の頃はほぼ文明などなかったこの作品ですが、人が集まる村に出会い、貨幣となるマーを使って統治を行う社会が登場しました。4巻が大きな転換期で、マーが完全に流通して市場が開かれる規模の村に到着しています。

しかしその村はマーを発行するマリョウの属領であり、重税に苦しんでいます。そこでマーの原石を大量に発見している太郎が、独自のマーを発行して自ら貨幣社会を作ってしまおうというのがこれまでの流れです。

5巻では肝心の独自マーを造幣して、村人に流通させる為に色々と画策しています。その為には夏祭りで独自マーを使用させ、村ではマリョウのマーよりも独自マーの方が価値があると思わせなければなりません。そのため、賭けの対象である力比べに出るパル。役者が揃ってきましたね。

しかし、独自マーに懐疑的な村人たち。半数ほどは今の重税である暮らしが良いと言い出します。この辺りは変化を好むものと維持を好むものというか、今の安定した生活を捨てて本当にいいのかという葛藤があるのでしょう。

現代でも同じようなことは起きますよね。つまらなくて給料は低いけど安定はしてる仕事のままでいるか、失敗するかもしれないけど思い切って転職するか。人間、安定を提供されたらそれを維持したくなるものなのです。特に、過去の生活が辛ければ辛いほどその傾向があるのではないでしょうか。

500年後の世界は文明が滅んでいるため、狩りや猟で生計を立てる生活です。毎日がサバイバルです。それが解消され、安定した寝床と食料が提供されるなら、中々それを手放す勇気は無いでしょう。同じ立場だったら自分もそうかも。

そんなことを尻目に、マリョウの八百長に抵抗しながら力比べで勝ち続けるパルはやっぱりカッコいい。最初に出会ったのがパルだったから気づいてなかったですが、安寧の暮らしを手に入れた人間と比べたらそりゃヒョウと戦ってたパルに適うわけないですね。パル最強。
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そしてマリョウに襲われながらも命からがら抜け出して村人の説得を続ける太郎です。しかし口頭だけでは迷っている村人たちが納得しません。一体どうやって納得させればいいものか。そこに、村の祭司がかつて祭司になるために実行したことの提案がされます。

それは高台から飛ぶこと。鳥を信仰している宗教に集う村人たちは、鳥に憧れ、鳥に近づいたものに敬意を払い信頼します。それを実際に太郎が実行してみせろと。

なるほどこれは、強い男に皆従う理論ですね。命を賭した行為をすることで最も凄い男だという証明をしようというのです。文明もほとんどない、実生活に根付いた鳥への宗教観。しかし誰も達成出来ない飛翔。口だけではなく行動で示すことが最も強い信頼を産むのでしょう。

こういう考えは現代でもあまり変わらないところがありそうです。有言実行カッコいい。生活を賭けて新貨幣に乗らなければならないのであれば、流通側も命を賭して問う覚悟であれと。

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そして太郎は飛びます。

この展開、泥臭い感じがしていいんですよね。元々現代では社長であり、金で人を物とも思わず使ってきた太郎。500年後の文明崩壊世界でパルを初めとした様々な人物に出会うことと、常に九死に一生を得るような生活を送ってきたことで、飛べるわけがなく無意味であるという合理的な考えから開放され、人間の魂同士でぶつかり合うようになったということではないかと。

すなわち、「望郷太郎」は貨幣経済の話のみならず、舞鶴太郎の成長譚であることが読み取れます。それにサバイバル要素やら戦争要素やらバトル要素やら駆け引き要素やら加わるのだからそれは面白いに決まってますね。

「望郷太郎」は名作「へうげもの」や怪作「度胸星」の著者である山田芳裕先生の作品です。宇宙に戦国に文明開化と描ける範囲が非常に広く脱帽です。続きも期待します。


眠気覚め度 ☆☆☆☆


6巻の感想はこちら(貨幣経済が成立しても金の奴隷にはなるな)



新装版 度胸星(1)
新装版 度胸星(1)
posted with AmaQuick at 2021.08.24
山田芳裕(著)
5つ星のうち4.5
¥660

GROUNDLESS : 第三穀倉地域接収作戦 - 初侵攻、新兵、暗闇の戦い、問題山積みの接収作戦

大絶賛ミリタリー戦記「GROUNDLESS」の2つ目の話である第三穀倉地域接収作戦の感想となります。巻数としては1巻の終盤から3巻までです。

第三穀倉地域接収作戦は読めませんが、序盤の話はここで読めます(GROUNDLESS -アリストリア改国戦記-)

ダシア自警団の活躍により、開放市民による蜂起を収束。この戦闘でめざましい活躍を遂げた狙撃兵ソフィアは、復讐と自分の子供を取り返す目的を果たしたため、自警団を自ら抜けます。

しかし蜂起による戦闘のため、外部との連絡が取れなくなるわ食料が入ってこなくなるわでダシア市民は飢える寸前に陥っています。その為、次に必要と判断したのが、開放市民が制圧している穀倉地域を接収し、町へ食料を供給することです。

もう本当に生き延びる為の戦争です。これをしないと市民は飢えに苦しみ、新たな暴動を生み出します。しかし、あくまで彼らは自警団。外敵から守るためだけでなく、市民を守るために開放市民へ攻め込む必要が出てきました。

町を離れるためには当然町の守りにする団員も必要で、このままでは攻守を成立させることが出来ません。そこで新兵を募兵することになります。そしてなんと、集まった新兵13名から4名を選び計10名で作戦を開始することになります。

自警団とはいえ、戦闘から何までの訓練が必要なところ、たった3日で作戦に参入することに。既にこの時点で破綻が見え隠れしています。そんな難関をどう対応していくのかが見せ所です。

この辺り、やはり妙に現実感があって面白いです。国が編成している軍隊ではなく単なる自警団だからやれることしか出来ないということ。そして物も人も足りなくて、一番重要なのは時間だということ。そのためには新兵といえど、ほぼ訓練無しで投入しなければならないこと。

なんでも可能な最強集団でなく、やれることが限られているという制限が団長も作戦隊長のアーネストも本当に苦労しており、それでもやらなければならないことを必死で対応していくという姿がやはり面白い。ギリギリの戦い好き。

とはいえ、相手も元はただの市民である開放市民。敵は特別な訓練を受けたわけでもなく、それこそ自警団よりも練度が低い相手です。が、彼らにあるのは自分たちが生き残ろうという強い信念。戦って勝ち取らなければ、国に殺されてしまうと考えているからこそ、立ち上がったのです。士気は開放市民の方が上でしょう。

そうして始まった第三穀倉地域接収作戦。ダシア自警団は新兵4名を含むたった10名編成であり、開放市民軍は幹部が謀略を張り巡らせて待ち伏せしていたり。駆け引きが非常に面白いのです。

特に新兵の中でことあるごとに差別発言を繰り返し、アーネストに突っかかる元島軍のニコライ。彼とアーネストの確執により自警団側は内部からも問題が多発していきます。
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「賤民同士で教えっこしてる場合じゃねーだろ!?」

戦場で上官に立て付く新兵。この時点で大問題ですね。しかしこのニコライの言い分、差別発言は置いておくと、実は度々理に適った発言をしているだけなのです。さすが元軍人、自警団とは質が違います。

実は最初読んだ時、ニコライの見せ方がどうみても嫌われ役で描かれていたので、アーネスト同様単に命令に従わない差別主義者だという捉え方しか出来ませんでした。それが何度か読み返す内、その場その場のニコライの発言は概ね正しいということに気づきまして。こういう読者の感情を操作しながらキャラ付けをしっかりしていくのは本当に素晴らしいですね。読んでて感情を揺さぶられる。

おまけにこの作戦後半のニコライがカッコよくてなあ。戦闘が始まってからのニコライは軍人であることを最大限に活かし、次々と活躍していくわけです。その為に敢えて前半は嫌なキャラに見せたのかも。ホントカッコいい。

また、他の新兵3名も体力が全然無いびびりだったり、命令の前に発砲してしまったり、狙撃手に憧れている子供だったり。いやあ、こんな部隊を任される隊長はホント胃が痛いわこりゃ。

そして夜間作戦の実戦闘に入って、開放市民軍の作戦に見事はまってしまい、絶体絶命となるダシア自警団。もうどうしようもない、あとはじわじわ殺されるだけ、という時に遂にあれが来てくれます。

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カッコいいなあこの絵。暗闇の中、長距離からアーネスト達を援護する狙撃兵。夜のため、戦地からはまず狙撃手を観測することが出来ず、射撃の瞬間を見つけても移動してしまえば反撃もそこまでになってしまう。戦場を一方的に支配してしまう狙撃兵、ここがこの戦闘最大の見せ場となります。

この後見事制圧完了するのですが、この一方的な状態になってからも、狙撃兵側の苦労や心情を描いているのがすごく良い。やりたくないけど、仲間の為に戦う。誰よりも人を殺す。何人も何人も。元々ただの人妻であったソフィアが殺人に手を染めていく。その苦悩もまた、戦争の産物であることを教えてくれます。

誰もやりたくて戦争などしていない。ダシア自警団は町を守るためだし、開放市民軍は自分たちが殺されないために戦っているだけである。理由を外に求めなければ、戦争といえど容易に殺人が可能な者などまずいないのだ。そんなことを思わせてくれます。やはり戦争物は悲惨であるべきです。


本当に面白いので、少しでも興味を持っていただけたら是非読んでいただきたいものです。

眠気覚め度 ☆☆☆☆☆


1巻の感想はこちら(隻眼の狙撃兵 - ミリタリーアクションの傑作)
10巻の感想はこちら(政治家と軍人)




ペリリュー -楽園のゲルニカ- 最終11巻 - 終戦、帰国、それから現代へ、歴史をつなぐ意欲作ここに完結

いきなり最終巻だけレビューというのもなんですが、「ペリリュー」が11巻に完結しました。パラオ島の丁寧な戦争描写から始まり、圧倒的劣勢の日本軍がゲリラ的に米軍と戦う様が明確に描写されていたペリリューは本当に面白かったです。

何よりも、徴兵された日本兵は本当にただの一般人で、特殊能力やずば抜けた戦闘力が無いのが当然なのに、戦わなければならない実情を兵士視点から描写していたのが素晴らしかったです。ひたすら敵に脅え、逃げ回り、攻撃する時は全員一斉でいかなければそもそも攻撃すらままならない。だけど戦わなければならない。何故こんな知らない島で戦闘をしなければならないのか。そういった兵士観点を丁寧に描かれていて思わず読みふけってしまいます。

終戦が告げられても、それは米軍が日本兵をおびき出す作戦だと断定し戦いを続ける描写を読んでてもやもやしました。日本兵側としては他に情報を知る術も無く、当然の対応ですし、かといって歴史を学んでいる我々にとっては、従って出てくれば安全は確保されるのに、と。そういったところが本当に丁寧で、良い作品だったと思います。

最終11巻はパラオで米軍に投降してから帰国までと、そのあとの現代の話で締めくくられます。特に、作中で主人公となっていた田丸均の孫を漫画編集者として登場させ、田丸均に取材をして戦争の漫画を描くという構成が良いですね。これは、実際に「ペリリュー」を描く流れとリンクさせて表現しているのです。すなわち、パラオの戦争に留まらず、その後どういう形で戦争の話が語り継がれたのかということまで丁寧に描写されています。

我々から考えると戦争は相当過去の話と思ってしまいますが、実際は祖父や曽祖父の世代が経験していることということを思い出させてくれます。実体験した人の戦争の話ほど、歴史を学ぶのに適したものはないでしょう。絶対に忘れてはいけない過去の歴史、それに真正面から向き合った「ペリリュー」は素晴らしい。

その取材の流れで、田丸均が孫に投げかけた言葉がとても興味深いです。
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「自分が人を殺したということ それを 自分の子供に伝えるのはとても恐ろしいことだよ」

絶句しました。必死で生き抜いてきた日本兵。単なる一般人でしかなかった日本兵。しかし、生き残るためには、壮絶な戦闘を乗り越えるためには、人を殺したという過去もつきまとうのです。この事実は、例え戦争で仕方なかったとしても、どれだけ人の心を蝕んだものなのか。想像するだけで恐ろしい。

「エリア88」でも、人を殺した人間は娑婆には戻れないという描写がありました。主人公の風間シンも、その為に戦場を離れたあとで自ら戦場へ戻ってしまいます。「エリア88」も戦争の悲惨さを描いた名作ですが、「ペリリュー」とも共通するのは、明確に戦争は愚かしいことだと読み取れるところではないかと。戦争を学び、同じ事を繰り返さないことが、我々の役目でしょう。


眠気覚め度 ☆☆☆☆

ペリリュー ─楽園のゲルニカ─ 11 (ヤングアニマルコミックス)
武田一義(著), 平塚柾緒(太平洋戦争研究会)(著)
5つ星のうち5.0
¥660
 
エリア88 1
エリア88 1
posted with AmaQuick at 2021.07.29
新谷 かおる(著)
5つ星のうち4.5
¥88

GROUNDLESS : 隻眼の狙撃兵 - ミリタリーアクションの傑作

私はかつてこれほどまで衝撃を受けたミリタリー作品を見たことがあるだろうか。もしかすると、そもそもミリタリーアクションというもの自体をあまり見てきていないのかもしれない。しかし、ここまで面白いと思える作品にはそう出会えるものでは無いということは理解している。このような素晴らしい作品に出会えたことを心から感謝したい。そう思わせてくれるのが「GROUNDLESS」です。「隻眼の狙撃兵」は1巻のサブタイトルとなり、今回はその範囲の感想にとどめておきます。

なお、オンラインでも「隻眼の狙撃兵」の前半と、コミックになっていない9巻以降の話が読めます。この記事を書くためにページ調べたら思わず9巻以降の話を読みふけってしまったことは内緒。
GROUNDLESS-アリストリア改国戦記-

さて、この「GROUNDLESS」の何が面白いかというと、戦争というのはこうまで人を苦しめるのかということを如実に突きつけられることにあるのです。

この架空ミリタリー戦記は、複雑な事情が大きく絡み合った、実に繊細で緻密な設定となっています。そこには国の思惑があり、民の思惑があり、軍人の思惑があり、自警団の思惑があり、それぞれが自分たちの正義のために戦います。どちらかが正しいということは一切ありません。正義は立場が変われば定義が変わるものだからこそ、争いが絶えないのです。その各々の立場としての思想表現が実に上手い。どの立場に取っても納得させられる内容となっています。それだけに、その中身や思いが実に濃く、全てのキャラに感情移入してしまうのではないかというほどです。

加えて、戦闘に参加する人間の多くが軍人ではありません。国に革命を起こすための開放市民軍は訓練などしたこともない一般市民が銃を振り回しているだけですし、主人公達のダシア自警団もあくまで自警団として訓練を実施しているだけのため、到底軍人には適いません。そのため、戦闘に参加しようものなら究極に死に近いと言えるでしょう。実際の戦闘描写でも、死に脅え震える姿や、人を殺す恐怖に飲まれる姿が何度も描写されます。しかし、それでも戦わなければならないのです、彼らの正義のために。

こういった描写をすることで、誰も戦争など望んでいない、しかし誰かがやらなければならない、という思いや迷いが容易に見て取ることができ、こちらの感情までも揺さぶってきます。それが本当に堪らない。戦争は誰も幸せにしない。そう、強く訴えかけてくるのです。


前述した「GROUNDLESS」の設定ですが、これが本当に緻密で一度では理解出来ないほどの内容となっています。簡単に書くと、島国が大陸から封鎖処置をされて恐慌が発生しており、国全体が国難に陥っています。この国難を打破する為には今の政権を打倒すべきだという思いから「開放市民軍」が各地で立ち上がり、革命を起こそうとしています。それに対して、元々島国で管理していた軍隊が敵対しています。ここに更に、大陸側の国家からは、この島国で最大の利益を得るために島国の政権に手を貸すか開放市民軍に手を貸すかの陰謀がうごめいています(どうするかの明確な描写はまだなかったはず)。そして更に、島軍でも開放市民軍でもない立場として、各町の自警団が存在します。主人公の立場はこの「ダシア自警団」です。政権だとか革命だとかは二の次で、自分たちの町を守るために動くこととなります。

またこれに加えてさらに話を難解にしているのが、島国の中に人種差別が根付いてることが上げられます。大陸からやってきた大陸系と、元から島に根付いていた島民系、さらにその混血系というように、出身だけで差別がされています。それらの考えかたもひとりひとりに根付いているため、単純にどこの軍閥に所属するかという正義思想だけでなく、人によってはこの人種差別思想もついて回るわけです。そのため政治観点でもそれらの思想が大きく影響したり、差別された側は人生に大きく影響します。うーん、複雑。

とはいえ、その辺りを最初はあまり理解していなくても、読み進める内に自然とわかるようになってくるので、やはり見せ方が上手いのだと思いますね。本筋に大きく影響はするけれども、主人公たちの実際の戦闘等には影響が無い、、、とは言い切れないですが、わかりやすく伝えてくれます。読んでいけばいつの間にか詳しくなっていることでしょう。

戦闘に入る際には必ず細かいブリーフィングが導入となります。
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人員の配置から、小隊の動き方、伝達方法や時間制限等、これから戦闘する際の作戦を丁寧にやり取りしています。こういう細かい描写とかが非常にわかりやすいのと同時に、このブリーフィング時で各団員の不安な表情や戦闘への恐怖も描写してるのがすごく好きです。自分が死ぬかもしれない、人を殺さなければならないという恐怖の感情。それらを団員同士で確認するようにブリーフィングが進んでいくのがまた良い。

さて、いよいよここからが「隻眼の狙撃兵」の感想に入っていきます。前述したように主人公が所属するのはダシア自警団となるのですが、1話の冒頭で事件が発生し、読めばわかるので敢えて書きませんがひょんなきっかけで自警団に入ることを決意します。このソフィアが自警団に持ち込んだのが1丁のスナイパーライフル。兵器の年代的にWW1あたりのものとなりますので、狙撃銃が出現した頃となるのでしょうか。遠く離れたところから撃つことによって、軍隊の侵攻を止めたり確実に敵兵を減らしていくのが大きな役目となります。この狙撃銃の存在が、一自警団を強烈に飛躍させる一手となるわけです。
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というのも、敵対するのは開放市民軍となるのですが、彼らも元は単なる一般人なので軍の訓練を積んだわけもなく、ましてや扱う重火器も拳銃や猟銃がメインとなるほど貧相な装備です。その戦場に突如現れた遠距離射撃武器ですから、それだけで戦場を圧巻することとなります。1回トリガーを引かれる度に倒れていく仲間たち。その恐怖に飲まれた時点で、勝負は決します。

「隻眼の狙撃兵」のお話は、主にGROUNDLESSの世界観紹介と主人公の生い立ち、そして狙撃銃が自警団を上の存在に昇華させたというところがメインです。正直、この話だけでも十分に面白いので必見です。しかし実は、この話以降がGROUNDLESSを傑作足りえるものにしているので、是非是非続きも読んでいただきたいところです。


こういったミリタリーアクションって何があったかなーと思い出すと「マージナルオペレーション」とかそうでしたね。あれは軍隊を操る側で敵に打ち勝つものでしたので、ミリタリーものと言っても過言ではないかと。「マージナルオペレーション」も面白かったですが、正直な感想としては「GROUNDLESS」はそれを遥かに越えた面白さを持っていると感じます。

あとはゲームだけど「戦場のヴァルキュリア」も近いものがあるのかなと思ったり。ただなあ、「戦場のヴァルキュリア」は戦闘システムは面白いんだけどキャラ全員が戦争じゃなくてピクニックしてる感じに見えてダメだったんだよなあ。戦争の悲壮感を全く感じられなかったというか。そのせいで投げた記憶。

「GROUNDLESS」は確実に傑作といえる作品です。既刊は9巻ですが、読み進める内すぐに続きを購入してしまうでしょう。それくらい、一度読み始めたとき没入感は素晴らしいです。オンラインで少し読んでみて、続きが気になったら是非是非!


眠気覚め度 ☆☆☆☆☆


2巻、3巻の感想はこちら (第三穀倉地域接収作戦 - 初侵攻、新兵、暗闇の戦い、問題山積みの接収作戦)
10巻の感想はこちら(政治家と軍人)


 

天空の扉 8巻 - 戦いの覚悟

三つ目族の故郷奪還作戦、ダンダルフィアの戦いがはっじまっるよー

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祖国を騙まし討ちにより追われることになった三つ目族の復讐の戦いがいよいよ始まった「天空の扉」8巻です。8巻の半分はこのダンダルフィアの戦いが繰り広げられます。

元からとんでもない技術力を持っている三つ目族はこの世界観で銃を作り上げ、遂には狙撃ライフルを完成させてしまいます。それも2000人の兵士全員に。それに対する嘘つき鬼の軍勢の多くは頑丈な戦闘猪率いる大軍、つまり狙撃を上回る射程も無ければ狙撃を防ぐ手立ても無し。すなわち、戦争は準備段階で既に決していたということとなります。いやあ、こういう軍隊による圧倒的な蹂躙は気持ちいいね。個々人が暴れまわるのではなく、統率がしっかり取れたまるで生き物のような動きは本当に素晴らしい。



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その戦後処理としてもなかなか面白いものが描かれていました。まるでどこかで見たことのあるような話ですね。詳しく言及することはここでは避けることとします。また、これをもっと掘り下げて読めるのが同じ作者作品の「魔法少女プリティ☆ベル」ですのでもっと読みたい人はそっちもチェックです。


8巻の後半は久しく見なかったマギアのディアボロの話となります。女の子と魔王の組み合わせ、さてさてどうなることでしょう。


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こんなことになってしまいました。

そうなんだよなあ、今回改めてディアボロがマギアの強さについて語ったのだけど、ディアボロからありとあらゆる魔法を継承してる時点でマルチハイエンドウィザードなわけだし、それに加えて自動索敵も出来るとかはっきりいって魔力切れと不意打ちを除いたら負けることはありえないんだよなあ。こりゃ反則、インチキ。ルーシュ達はスタン以外全員頭おかしいレベルで強すぎるし、スタンも唯一の素人のクセに良い展開になってきたし、ホント見所あるよ天空の扉は。設定が良く練られてる、しかも論理的に。だから読んでいてすんなり納得出来るのがいいね。

さてさて、今回の表題にした「戦いの覚悟」ですが、怒りと共に自分や仲魔を守るために敵対者を容赦なく殲滅出来るようになったルーシュ、やらなきゃやられる、今放っておいたらあとで大変なことになる、と理性で敵対者を殲滅出来るようになったスタン、実は最初からいる人間枠でまだ人を殺していないのはマギアだけです。ゴブリンは笑顔で殺せるのにね。そのマギアに今回大きな試練が訪れることになります。魔王に強いと明言されるマギア、果たして彼女はその覚悟を越えることが出来るのか?いやあ、良い展開だなあ。


ストーリーもそうなんですが、先ほども書いたように設定が細かく決められてることがより面白さを増しています。今回の例では戦闘猪の設定ですね。作中自体に書いてあるのをまとめると「分厚い皮膚や力強いパワーで攻撃をものともせずに進撃を続け、目の前を蹴散らし、死体や雑草を食べ、破城槌のように建物を破壊してしまうスゲー強いブタ」という感じなのですが、おまけページに書かれている補足が秀逸でした。それは、強力な動物があるゆえにその食欲が旺盛過ぎて周辺の土地をあっという間に食べつくしてしまい、維持するためには遊牧民のように場所を転々と移動しながら食物を求めなければならないがゆえの国家自身の侵略性ということ。単純に卑劣で弱者を蹂躙するのが好きというだけじゃなくて、そういう背景もあってゆえの侵略という見方も出来るのが凄く良い。

というわけで、やっぱり設定が面白い「天空の扉」8巻でした。当然次巻も楽しみですな!


7巻の感想はこちら (天空の扉 7巻 - 各勢力の思惑、そして始まる三つ目族の戦争)
16巻の感想はこちら (天空の扉 16巻 - ゴブリンエンペラーに説教される勇者レイ)
17巻の感想はこちら (天空の扉が開かれる時)

眠気覚め度 ☆☆☆☆

天空の扉 8
天空の扉 8
posted with AmaQuick at 2021.06.02
KAKERU(著)
5つ星のうち4.4
¥544

ホークウッド 8巻 - まさかの打ち切り完結!!

打ち切りだとおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!
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最後まで読んでから、最終話と描かれていることに気づいてこれで完結と知ることになったホークウッド8巻です。

テーマはいいし、話も筋が通っていてなかなか面白かったんだけどなあ。やっぱり傭兵が主役なのにそこまで傭兵がパッとしていなかったから人気でなかったのだろうか。本来なら王国騎士団VS傭兵団という対立抗争を明確にして、信念と礼儀を重要視する騎士団と、金のためには、勝つためにはなんでもやる傭兵団という軸を立てるべきだったかと思います。しかし、その「勝つためならなんでもする」っていうのをイギリスの王様がやっちゃったからもう傭兵団の出る幕無いよねってのが7巻からの流れになってしまいましたね。 


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国王がまずこの考えに到達しちゃったもの


だからホークウッド達が何もしなくなっちゃってて、全然存在意義無いのが非常に勿体無かった。しかもその話が6巻くらいからずっと続いちゃってるんで、これで人気落としてしまったのではないでしょうか。この王様の考え方とかは凄く合理的で面白いんですけどね。うーん、ここからこの倫理観に傭兵団が一枚噛んでいく形ならもっと面白くなったんだろうけど。時間切れなのかなあ。


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こういう展開だからね。栄誉だ正面から正々堂々だという騎士団に対してのこの考え方。実に泥臭くて真理をついていて、現代では戦争に対する考え方というものはこうなるのではないでしょうか。勝った方が正義、それが歴史を振り返ると事実なわけですから、何を甘いこと言ってるのだというものですよ。こういう極めて合理的な考え方好きなんですよね、人間臭いのが好きなので、綺麗事言ってるのはあまり好きじゃないです。臭くて読む手が震えてしまう。


というわけで、なかなか面白いのに8巻で打ち切られたホークウッドでした。8巻自体は7巻を収束させる展開なだけなので、7巻まで読んでる従来の読者くらいしか楽しめないでしょう。うん、実に惜しい作品だった、トミイ大塚の新作に期待!


7巻の感想はこちら (ホークウッド 7巻 - 精神論と合理性)

眠気覚め度 ☆☆☆


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