これ、本当におすすめです。

内面の心理描写が抜群の山本中学先生の新刊「青春は変態」がめでたく発売されました。もう、とにかくニヤニヤが止まらなくて一気に眠気が覚めてしまいました。これは恋愛もののひとつとして絶対に人気が獲得出来るレベルです。知名度が上がれば売れるはず。

実は、山本中学先生が描く作品ってドロドロしてたものが多かった気がするんですよ。「繋がる個体」は好きなのに理由があって別れたアラサーがくっつく話だし、「戯けてルネサンス」は高校ものだけど出てくるクラスメイトの過去が壮絶だったし、「サブスク彼女」はそもそもメンヘラがテーマだったし、「左様ならこんばんは」に至ってはヒロイン最初から死んでるし。

だけどこの「青春は変態」はとにかくピュアな陰キャの恋愛が見れるんです。相手のこと好きなんだけど、実は好き避けしちゃってたり、勝手に卑下して相手に不快な思いをさせていると思いこんで落ち込んでいたり。

そんな男女それぞれの心理描写が代わる代わる表現されることで、陰キャ思考が実は全然大したことない杞憂で、そんなごちゃごちゃしなくていいからとっととくっつけよコンチクショーとなるんです。そう、ちょうど作中の樒(しきみ)さんと同じ立場になれます。

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序盤から友人にからかわれることを契機に、隣同士の席だった二人が、これまで実はお互い密かに意識しあっていた二人が急に接近を始めるんです。しかも女の子の檜さん側からの大胆のアプローチで一緒に帰ることに。そんなきっかけで、少しずつ二人の歯車が動き出すんですね。

だけど前述した通り、自分のことなんか好きになるわけがないという勝手な思い込みが二人共あって、一緒に帰って楽しいはずなのに緊張して考えすぎて、そしてその心理描写が次々と繰り返されます。ある意味双方が主人公として様々な思いを交差させるわけです。

もちろんこの二人の思考なので、それぞれの思いには気づいていません。読んでいる第3者の読者だけがわかるという、まさに神視点で二人を見守る事ができるんです。これがやっぱり、元々心理描写が上手いからこそ出来た手法なんじゃないかと思うわけです。これは上手いと思うなあ。


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えっこの時間はもはやデートでは!?

色々あって、何かおごるということで喫茶店に入った二人、実際にケーキを食べるまでこれがデートであると気づきませんでした、初々しくて可愛い。

そしてこのシーン、水を注ぎに来る店員がこの二人を見てニヤニヤしていて、それがまた良いんです。この店員もまさしく、読者である我々と同様に二人の初々しい姿を見守ってるんですねえ。作中キャラと読者もシンクロさせて、何よりもこの主人公二人の恋愛がメインですと主張してるのがまた上手い。


こんな展開をしながら、徐々に近づいたと思いきや、陰キャ思考が故にやっぱりなかなかすぐにはくっつかなくて、ニヤニヤもモヤモヤもさせてくれる展開になっていきます。

そんな展開が続いてくのかなーと思いきや、中盤に息を呑むような大きな動きがあります。

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このシーン。ポイントになるのはこの前のページなのですが、さすがにそれはネタバレなので貼れません。ただ、このシーンがめちゃめちゃ良すぎて、「青春は変態」が絶対に売れるべき作品だと思わせてくれました

これがきっかけでお互いの意識がさらに深まっていって、いよいよタイトルにある「変態」的な妄想やらなにやらが始まっていくのです。


いいなあ、若い頃は確かにこういう思考しちゃった時もあったなあと色々思い出させてくれます。なので、二人が考える陰キャ思考もわかるし、そんなのは杞憂だというアドバイスもしたくなるし、それでも徐々にお互いのことを理解して思いが深まっていくのをじっくりニヤニヤ見届けたいしという気持ちになるんです。

これ好きな人は好きどころか、知名度上がれば絶対に注目されると思うんだよなあ。それくらい一般向けな内容になっている気がするし、山本中学作品に触れるならすごく入り込み易いと思うんです。

何より他の作品よりもドロドロしたところがないし。せいぜい陰キャ思考が過ぎてイライラするかもくらい。出てくるキャラも悪い人物はいないし、作中キャラはみんな杉村くんと檜さんのそれぞれの思いに気づいていて、二人を応援してる人たちしかいないし。

じっくりとニヤニヤしながら二人の行く末を見守りたくなる「青春と変態」でした。抜群にオススメです。


眠気覚め度 ☆☆☆☆☆


青春は変態 1
青春は変態 1
posted with AmaQuick at 2022.06.10
山本中学(著)
日本文芸社 2022-06-09T00:00:00.000Z

¥734