伊賀崎交番所長にフォーカスを当てたシリアス話が展開される「ハコヅメ」20巻です。アンボックス含むと実質21巻目です。

これはアンボックスと同レベルのシリアスさを放っています。巻中でしばしばいつも通りのノリのギャグが繰り広げられるものの、正直それまでの流れからは笑えるようなものは少なく、終始一貫してシリアスです。

普段は笑い重視のハコヅメ、しかし警察官は常に死と隣合わせの可能性がある危険な職業であることを全面に表現し、警察官の非常にシビアな話をまた描写してくれています。アンボックスのアナザーバージョンとも言えるでしょう。それぐらい、覚悟を持って読むことをおすすめします。

読んでる最中はまさに息を呑むような展開が続き、終盤は事件に立ち向かう川合たちの心境がありありと伝わる見事な描写で、警察官といえど一人の人間であることを思い出させてくれます。

今回の事件の犯人もまた、一人の人間だからこそそういう思考に至るのも致し方ないとも思える動機であり、それぞれ非常に人間臭い感情が発生しています。だからこそ読み手に全力で訴えかけてくる、心を握りつぶされたような感覚に陥ります。

読んでてこんなにハラハラドキドキさせるものはそうそう無いですよ、それだけでこの作品がやはり凄いということが再認識できます。


話としては、というか話の感想書くとどう書いてもネタバレに触れなきゃならないので難しいのですが、虎松の話がまた関係してきます。死してなお生ける関係者を走らせる、どれだけ虎松譲二が人たらしであり、策略家であったのか。一つの組織から関連事件が多すぎるんだよなあ。

しかも20年前の潜入捜査時期から関係させてるとか、一体どこまで考えて伏線置いているのでしょうか。この調子だとこれまで出てきたキャラが全員何らかの大きな事件に関係するまで発展してしまう。町山市とんでもないな。

そして今回の事件の犯人が、これまでの誰よりも悪意が強いというのが、この話をシリアスにするのに拍車を掛けています。計画性があって、信念があって、全てを理解した上で犯罪をしているタイプはこれまでハコヅメでほとんど出てきていません。その代表格がやはり虎松譲二を始めとした反社グループであり、今回もまた虎松譲二関連なのです。

想像も入りますが、普段の警察官が対応し得る事件は、交通事故等を始めとした過失事故だったり、欲望に負けた性犯罪だったり、計画性の無い窃盗だったりが多いのではないでしょうか。特に新任の川合が請け負った事件はそういったものがほとんどでした。

それに対して、今回の犯人はある意味組織だって行動をしており、自分のしていることが犯罪だとわかった上で実行しています。そういった覚悟を持った相手に対するのは川合を始めとした町山署のメンバには経験が少ないものでしょう。だからこそ、緊迫感に溢れた事件対応が繰り広げられることになったのではないかと。


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「嫌です!行きたくない」

事件の対応といえど、恐怖のあまり拒絶する川合。冗談の範疇ならともかく本気で嫌がるような描写は初めてに思えます。死に直面する可能性と警察官としての正義の間で揺らぐのはまさに人間らしい感情です。警察官とはいえ一人の人間であることを思い出させてくれます。


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「あと5分あるけど…親に電話するか?」


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「命の危険がある任務だから 配置につく前に一応…2分間とるから大事な人と話をしといで」

もしかしたら、この任務の結果死ぬかもしれない。なので事前に話をしておきたい相手と話をしておけという上司からの温情。死の機会があり得るからこそ覚悟しろという命令。これを見せられると否応なしに緊張感が走ります。彼らは間違いなく、死ぬかもしれない危険な任務についているのだと。

シリアスはこれまで度々ありましたが、どれも身に危険が及ぶようなものはこれまでなかったです。だからこそ今回、このような非常にリアルな現場表現が見れたことは、「ハコヅメ」の面白さを更に裏付けたものになるのではないかと思うわけです。

というのも、「ハコヅメ」は基本的に警察官の日常を描くのがメインであり、元警察官の作者だからこそ表現できるリアリティが面白さの一部でした。

それをこれまで大いに表現した上で、時たま起こる非日常事件というのがまた余計にリアリティを発揮していると思うのです。テレビやニュースで語られるような事件はどのような現場対応しているのか、その時の警察官はどのような気持ちで臨んでいるのか、それらが非常に良く表現出来ていると思います。

特にそこに表現される警察官の人間らしさが拍車を掛けます。

死ぬかもしれない、行きたくない、怖い。だけど私が(警察官が)命を危険にさらさないと、他の一般市民が危険にさらされてしまう。警察官としての正義は文字通り自己犠牲をしてまで達成しなければならないのか?しかしそれをしなかった時に自分は激しく後悔しないだろうか?そんな感情まで見え隠れします。

この人間らしいリアリティが非常に上手く、現場の緊張感が読み手にも伝わってくるのです。これ、映画見ててもこんなにハラハラしないですよ。元々漫画を読む時には感情移入しがちなのですが、そうだとしてもこんなにドキドキしたのは初めてかも。固唾を飲んでページをめくってしまった。


それくらい凄まじい20巻でした。アンボックスとはまた違う方向でリアリティがあります。アンボックス好きな人はこういう話好きなんじゃないかなー。ただ、こういうノリばかりになってしまうとそれはそれで辛いかも。


あとはこの事件を通して中富課長の警察幹部としての苦悩だったり、源の天才がゆえの苦悩だったり、潜入捜査官としての伊賀崎がどれだけ過酷な捜査をしていたのか読めたのがすごく良かったです。

特に源のくだりは、何気ない伊賀崎交番所長の語りから事件につながるところがあって好きだなあ。

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「人が「理解するため」苦しんでる時間 天才は「理解されるため」苦しむんだろうなって思ってね」

このシーンがまさか源の苦悩につながるとは最初思いませんでした。ただ思い返すと、もともと源は取り調べの天才と度々言われており、この20巻でもしばしば中富課長がそれに言及しています。


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「源部長は良かれ悪しかれ「特別」だと思うから…」


そして事件発生時、対応に向けて源も違和感を感じます。
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「自分の「感覚」が鳴らす警鐘を どうあがいても打ち消せない」

源の「感覚」でしかないからこそ、源自身はこれで間違いないはずだと思うものの、上司である刑事課長や中富課長からその対応はせずに応援を待てと言われて葛藤します。これが「天才」もしくは「特別」だからこそ持ちうる、「わかりあえない」という気持ちなんですよね。

まさしく、「人が理解するために苦悩している」のに対し、「天才が理解されるために苦悩している」シーンなのです。


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「対峙した上での源部長の判断なら それが絶対に最善策です」(ネタバレのため一部セリフを伏せました)

それを理解してくれたのが川合であるというのがまた良い。源の行動は傲慢で組織に逆らう懲戒ものかもしれないけれども、現場にいる川合はそれが被害者を助けるための最善策として捉え、共に行く覚悟をするというのが本当に素晴らしい。「特別」な源誠二が「理解された」瞬間です。

この流れからの、事件解決に向かうやり取りがすごく良かった。これってこの20巻までで展開された川合と源の関係値があるからこそ出来た表現だと思うんですよ。普段馬鹿にしていても肝心のところで信頼し合える関係が素晴らしいじゃないですか。

そんな素晴らしい2人も見れるのが「ハコヅメ」20巻です。素晴らしかった。


いやあホント、19巻で閑話休題したのとちょっと面白さがなくなってきたかなーと思っていたところで、この20巻という流れですよ。ホント化け物ですねこの作品、また面白さが加速してる。思わず1日で2回読んでしまいました。1回読むのに30分は掛かるのに。まだまだ安泰ですねこれは。


眠気覚め度 ☆☆☆☆☆


ハコヅメ3巻の感想はこちら(川合先生初登場の似顔絵特別捜査本部)
ハコヅメ4巻の感想はこちら(黒田カナ伝説はここから始まった)
ハコヅメ5巻の感想はこちら(とにかく笑える内容盛り沢山)
ハコヅメ6巻の感想はこちら(伝説の笑ってはいけないお誕生日会が収録されたハコヅメの最高傑作巻)
ハコヅメ7巻の感想はこちら(煽り役としてパーフェクトな聖子ちゃんが見れます)
ハコヅメ8巻の感想はこちら(これ警察学校で習ったやつだ!)
ハコヅメ9巻の感想はこちら(色々な話が詰め込まれている、これぞハコヅメ)
ハコヅメ10巻の感想はこちら(迷惑防止条例と強制わいせつの違いが勉強になります)
ハコヅメ11巻の感想はこちら(1巻の伏線を見事回収、この日の出会いを何度も後悔することになる)
ハコヅメ12巻の感想はこちら(同期の桜完結、川合の成長を感じられる最高の展開)
ハコヅメ13巻の感想はこちら(アンボックス事件のカップルが登場)
ハコヅメ14巻の感想はこちら(奥岡島事件発生篇)
ハコヅメ15巻の感想はこちら(奥岡島事件解決篇)
ハコヅメ16巻の感想はこちら(1巻で出てきたキャラが再登場する感動の成長譚)
ハコヅメ17巻の感想はこちら(アンボックスを読んだ後に読むと非常に切ない)
ハコヅメアンボックスの感想はこちら(警察の負の感情を全力で主張した傑作)
ハコヅメ18巻の感想はこちら(即ハメあんあん激イキスクール)
ハコヅメ19巻の感想はこちら(20巻を読むために覚悟させられる巻なのではないか?)
ハコヅメ21巻の感想はこちら(虎松譲二事件完結!大事件の事後処理といつものギャグパートが再開します)


ハコヅメ~交番女子の逆襲~(20) (モーニングコミックス)
泰三子(著)
講談社 2022-02-22T00:00:00.000Z
5つ星のうち4.9
¥693