この巻だけでアンハッピー・ホーリーグレイルのギャンブルが読みきれる「ジャンケットバンク」6巻です。ルール説明から決着まですっきり収まっているのが素晴らしいですね。しかもしっかり次巻への期待も残してくれています。


尚、今回どうしても語りたくなったのでネタバレ記載しています。この記事最下部に注意表示のあとで記載しますので、ネタバレ見たくない方はご注意願います。



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さてさて、満を持して開始された「アンハッピー・ホーリーグレイル」、1/2ライフの戦いであり、ジャンケットとしては御手洗くんがキャリア100年を掛けて対戦相手が死ぬかどうかの戦いでもあります。

「ジャンケットバンク」は既にギャンブラー同士だけの戦いではなく、彼らを手配する銀行員側の戦いが始まっています。チーム真経津and御手洗は、御手洗くんが新人ジャンケットのため常に銀行員の戦いとしては劣勢。そんな状態から成り上がる下克上ものでもあるのです。


そして肝心の対戦方法「アンハッピー・ホーリーグレイル」ですが、、、
正直一回説明聞いただけではよくわかんねえな。。。
というのが最初の率直な感想。


聖杯と聖水を選び合って、毒を相手に飲ませるというのが基本ルールです。

  • 聖杯は本物が1つ、偽者2つの計3つ。本物の聖杯は聖水の質を反転、つまり聖水は毒に、毒は聖水に変化する。
  • 聖水は本物が1つ、毒が2つの計3つ。
  • 互いに聖水側と聖杯側に分かれて、どれが本物か偽者か相手にわからないように配置する。
  • 先手は自分が使う聖杯を選び、相手は敵に飲ませたい聖水を選ぶ。ここでまず最初の駆け引きが発生。
  • 後手は聖杯聖水それぞれ配置そのままで、まず聖杯を選び、敵が聖水を選ぶ。配置は敵が決めてるので、本物偽物の判断はつかない。ここは純粋なギャンブルであれば運の要素が出てくる。
  • 最終的に、より多く聖水を得た方が勝ち。

ということは、基本的には最初の聖杯は本物を選ぶのが確率を考えたら正しい。なので、その裏を読む必要がある。裏の裏の探りあいがこのギャンブルの本質なわけです。


というところまではなんとなくルール説明段階で理解は出来ました。裏の裏みたいな話なので、ちょっと複雑ですね。4巻の「ジャックポット・ジニー」より難解です。


で、読み続けていくと、やはりこの聖杯と聖水の応酬になります。選び方だったり、相手がこれを選ぶだろうと見抜いたり、まあいつもの流れですね。なので、正直なところ「ジャックポット・ジニー」のような退屈さを感じてしまいました。

というのも、いつも通り真経津はずっと相手に読み負けるし、いつも通り御手洗くんは前述したようなこのギャンブルの定石を読者の代わりに語りだしたり、「来いッ!聖水!」みたいに、カイジがワンポーカーをしている時のチャンやマリオのような表現がされます。

なので、うーん、つまらなくはないけど飛びぬけた面白さではないかなーと思っていました。


それが結末に向かうに連れて、大きく変化していきました。

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「君の観測は曇ってきてる 本番はこれからだ」

ここからの流れがですね、はああああああぁぁぁぁぁぁぁ???と思わず唸ってしまうような展開なんですよ。いやいやいやそんなことわかるかあっ!確かに、確かにそういう描写が多かったからそこにはなんかあるんだろうなとは思ったけれども、そういうオチなの!?

というような展開なんです。しかも、ここから更に発展するんです。

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「全部わかったところで 仕切り直して遊ぼう」

ここから決着に向かう流れが、今までのギャンブルからは想像も出来ない結末過ぎて、また度肝を抜かれたのです。こんな結末誰も予想出来んって。もう田中一行の手のひらの上ですよ。手のひらくるくるですよホント。この話の作り方は脱帽だわ、凄すぎる。

ただ、これ賛否両論ありそうな決着とも言えます。うーん、自分は好きですけどね。だけどちょっと行き過ぎてるのかなという感じは受けます。


そしてまた、この結末を知ったあとで最初から「アンハッピー・ホーリーグレイル」を読み直すと、最初から全部そういう方向に持ってってるんですよ真経津が。全てはそこに向けて計画された結末になってるんです。ぶれずにそこまで描ききるのはホントすごい。

しかしどうなんだろうな、これ連載だと途中のやり取りにだれるとかあるんじゃないかな。決着のカタルシスを重視するあまり、過程がちょっとおろそか、というか不自然に真経津がやられすぎてるもしくは喋らなさ過ぎてる気がします。相手の叶黎明が喋りすぎなところもあるけど。


何にせよ、6巻も面白かったですし、7巻以降の展開がどうなるのかもまだまだ楽しみですね。超絶期待します。


眠気覚め度 ☆☆☆☆☆


3巻までの感想はこちら(大金を持つ銀行は最高の賭場になり得る)
4巻の感想はこちら(まさかの決着方法に脱帽のジャックポットジニー篇完結)
5巻の感想はこちら(閑話休題でも一切手を抜かないギャンブラー達)
7巻の感想はこちら(一皮剥けた御手洗くん篇)
8巻の感想はこちら(話の展開が全く見えなくなってきました)
9巻の感想はこちら(ヒーローズジャンケットがギャンブラーと銀行員を大きく動かす)
10巻の感想はこちら(ライフ・イズ・オークショニアはジャンケットバンク史上最大の面白さ)


ジャンケットバンク 6 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)
田中一行(著)
集英社 2022-02-18T00:00:00.000Z
5つ星のうち4.5
¥659









ここからネタバレ含む感想となります。













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いやあ、毒の話で2種類あるんだとか言い出したのはホントこの御手洗くんのような声出たなあ。いや毒のシーンで御手洗くんはこんな顔してないですけどねw

というよりも、全ての嘘を信じ込ませる為に複数毒の話を持ち出した真経津が凄いのか。



というわけで、あまりにも誰かと語りたくなったので読み返して気づいたことをつらつらと書いていきます。



まず毒の伏線として、真経津が度々聖杯と聖水の裏を調べるんですよ。

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一番最初のシーンがここですね。最初に真経津が手にした聖水と毒の裏面をチェックしています。

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次が2ラウンド目の最初に真経津が聖水を配置する場面。一見、配置を考える為の確認というように見えます。読者はそう思うのではないでしょうか。

聖水の裏面は真経津が語ったように、枠の色が異なっています。といっても、印刷の関係か(これは電子版だけど)、パッと見ではあまりわからないですよね。

自分も、あまりにもこの描写が繰り返されるので何かあるのかなとじっくり見ましたがそもそもその色には気づかず。そして例え気づいていたとしても、それが複数毒があるなんて思いもよらないでしょう。だって自分はこの毒飲んでないし。真経津が本当に吐血してるのかどうかもわからないですしね。

また、エンバンメイズであったような毒が効いてる振りをしてる可能性も否めなかったので。清六との戦いはベストバウトと言ってもいいくらい面白かったですね。

話が逸れました、そして相乗毒だということで、真経津は自分が飲む毒と叶が飲む毒を偏らせようとしていきます。2ラウンド目は叶に真経津が飲んでいない方の毒を選択、真経津は叶に毒を選ばれるとわかってか、1ラウンド目と同じ毒を飲むことになります。

3ラウンド目以降は、運の要素が絡むような気がしますが、真経津は既に確実にどれがどの毒か見分けられるようになっていたのでしょうか。ちょっとそこはわからないかな。だけど、真経津と叶の会話が微妙に噛み合ってることに気づけます。

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「会話せずとも互いの真意に気付ける オレ達は敵だけど阿吽の呼吸ってワケだ」

噛み合ってるけど、これ見てることが全然違うんですよね。叶はこの戦いを盛り上げるためだと思っていて、真経津は既に毒の仕分けを出来るように考えてるとか。皮肉効いてて実に面白い。

そして聖水が反転した毒は叶しか飲んでないというのも流れの上でその通りです。まあ長々と書きつつ、この話は決着になんの意味もなかったわけですがw  という言い方は少し語弊があるか、叶に自分の運命の器を飲ませるための嘘だったわけで。


でまあ、結局もっと楽しみたいんだなんだと理由をつけて相手の勝負心を煽って運命の器を飲ませますが、それはいいとして、そもそも疑問だったのがなんでこいつら毎ラウンド飲んでるの?なんですよ。

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「毎ラウンド飲むなんて 一言もいっていない」

ここでようやく叶も気づいてますが、そうなんですよ、ルールで毎ラウンド飲むなんて一切言ってないんですよ。飲む条件はペナルティの時だけです。


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「もはや言うまでもないことですがこのゲームのペナルティは取得した聖水と毒をすべて飲むことです」

なので、まず最初に「ペナルティって何が該当するの?」になるわけじゃないですか。なのにこいつら毎ラウンド飲んでるんです。頭おかしい。

そしてよくよく読み返すと、「ペナルティ」を「毎ゲーム注がれた聖水と毒を飲む」という方向に全員を勘違いさせたのは真経津なのです。


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「祝杯をあげよう 乾杯」

このシーンですね。これ、実は誰もこれを飲まなければならないなどとは言い出してません。だけど、真経津があまりにも流れるように飲み始めることから、自然と毎ラウンド飲まなければならないのだと思い込ませることに成功しています。

実はこのコマの直前でも、ちょっとした気づきのシーンがあります。

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司会進行の蔵木が「おやっ?」と気づいてるんです。これ、おそらく初見の読者は、真経津が飲む為にわざわざ乾杯をしようとすることに関しての気づきに見えるのではないでしょうか。

しかし結末を知った上で読み返すと、「別に今飲まなくてもいいのにもう飲むんですね?」という気づきに見えませんか?自分はこの蔵木の気づきがあった上での真経津の乾杯という表現を読み直して、全ての策略はここから始まっていたのだと思いました。


この緻密な仕掛け、週刊連載で、特にジャンプのようなアンケート取りのその場しのぎ展開では絶対出来ないことですよね。

相当事前に話を作りこんで、少なくとも各ギャンブルのネームは全部切ってから原稿を書いてるんだろうなあ。凄く丁寧に、面白い漫画を描こうという意識が強いのだと思います。本当に尊敬します。

もっと売れてほしいなあ、もっと人気出てもおかしくないと思うんだけどなあ。これ打ち切られたりしたら泣くぞホント。