私はかつてこれほどまで衝撃を受けたミリタリー作品を見たことがあるだろうか。もしかすると、そもそもミリタリーアクションというもの自体をあまり見てきていないのかもしれない。しかし、ここまで面白いと思える作品にはそう出会えるものでは無いということは理解している。このような素晴らしい作品に出会えたことを心から感謝したい。そう思わせてくれるのが「GROUNDLESS」です。「隻眼の狙撃兵」は1巻のサブタイトルとなり、今回はその範囲の感想にとどめておきます。

なお、オンラインでも「隻眼の狙撃兵」の前半と、コミックになっていない9巻以降の話が読めます。この記事を書くためにページ調べたら思わず9巻以降の話を読みふけってしまったことは内緒。
GROUNDLESS-アリストリア改国戦記-

さて、この「GROUNDLESS」の何が面白いかというと、戦争というのはこうまで人を苦しめるのかということを如実に突きつけられることにあるのです。

この架空ミリタリー戦記は、複雑な事情が大きく絡み合った、実に繊細で緻密な設定となっています。そこには国の思惑があり、民の思惑があり、軍人の思惑があり、自警団の思惑があり、それぞれが自分たちの正義のために戦います。どちらかが正しいということは一切ありません。正義は立場が変われば定義が変わるものだからこそ、争いが絶えないのです。その各々の立場としての思想表現が実に上手い。どの立場に取っても納得させられる内容となっています。それだけに、その中身や思いが実に濃く、全てのキャラに感情移入してしまうのではないかというほどです。

加えて、戦闘に参加する人間の多くが軍人ではありません。国に革命を起こすための開放市民軍は訓練などしたこともない一般市民が銃を振り回しているだけですし、主人公達のダシア自警団もあくまで自警団として訓練を実施しているだけのため、到底軍人には適いません。そのため、戦闘に参加しようものなら究極に死に近いと言えるでしょう。実際の戦闘描写でも、死に脅え震える姿や、人を殺す恐怖に飲まれる姿が何度も描写されます。しかし、それでも戦わなければならないのです、彼らの正義のために。

こういった描写をすることで、誰も戦争など望んでいない、しかし誰かがやらなければならない、という思いや迷いが容易に見て取ることができ、こちらの感情までも揺さぶってきます。それが本当に堪らない。戦争は誰も幸せにしない。そう、強く訴えかけてくるのです。


前述した「GROUNDLESS」の設定ですが、これが本当に緻密で一度では理解出来ないほどの内容となっています。簡単に書くと、島国が大陸から封鎖処置をされて恐慌が発生しており、国全体が国難に陥っています。この国難を打破する為には今の政権を打倒すべきだという思いから「開放市民軍」が各地で立ち上がり、革命を起こそうとしています。それに対して、元々島国で管理していた軍隊が敵対しています。ここに更に、大陸側の国家からは、この島国で最大の利益を得るために島国の政権に手を貸すか開放市民軍に手を貸すかの陰謀がうごめいています(どうするかの明確な描写はまだなかったはず)。そして更に、島軍でも開放市民軍でもない立場として、各町の自警団が存在します。主人公の立場はこの「ダシア自警団」です。政権だとか革命だとかは二の次で、自分たちの町を守るために動くこととなります。

またこれに加えてさらに話を難解にしているのが、島国の中に人種差別が根付いてることが上げられます。大陸からやってきた大陸系と、元から島に根付いていた島民系、さらにその混血系というように、出身だけで差別がされています。それらの考えかたもひとりひとりに根付いているため、単純にどこの軍閥に所属するかという正義思想だけでなく、人によってはこの人種差別思想もついて回るわけです。そのため政治観点でもそれらの思想が大きく影響したり、差別された側は人生に大きく影響します。うーん、複雑。

とはいえ、その辺りを最初はあまり理解していなくても、読み進める内に自然とわかるようになってくるので、やはり見せ方が上手いのだと思いますね。本筋に大きく影響はするけれども、主人公たちの実際の戦闘等には影響が無い、、、とは言い切れないですが、わかりやすく伝えてくれます。読んでいけばいつの間にか詳しくなっていることでしょう。

戦闘に入る際には必ず細かいブリーフィングが導入となります。
20210720_000
人員の配置から、小隊の動き方、伝達方法や時間制限等、これから戦闘する際の作戦を丁寧にやり取りしています。こういう細かい描写とかが非常にわかりやすいのと同時に、このブリーフィング時で各団員の不安な表情や戦闘への恐怖も描写してるのがすごく好きです。自分が死ぬかもしれない、人を殺さなければならないという恐怖の感情。それらを団員同士で確認するようにブリーフィングが進んでいくのがまた良い。

さて、いよいよここからが「隻眼の狙撃兵」の感想に入っていきます。前述したように主人公が所属するのはダシア自警団となるのですが、1話の冒頭で事件が発生し、読めばわかるので敢えて書きませんがひょんなきっかけで自警団に入ることを決意します。このソフィアが自警団に持ち込んだのが1丁のスナイパーライフル。兵器の年代的にWW1あたりのものとなりますので、狙撃銃が出現した頃となるのでしょうか。遠く離れたところから撃つことによって、軍隊の侵攻を止めたり確実に敵兵を減らしていくのが大きな役目となります。この狙撃銃の存在が、一自警団を強烈に飛躍させる一手となるわけです。
20210720_001
というのも、敵対するのは開放市民軍となるのですが、彼らも元は単なる一般人なので軍の訓練を積んだわけもなく、ましてや扱う重火器も拳銃や猟銃がメインとなるほど貧相な装備です。その戦場に突如現れた遠距離射撃武器ですから、それだけで戦場を圧巻することとなります。1回トリガーを引かれる度に倒れていく仲間たち。その恐怖に飲まれた時点で、勝負は決します。

「隻眼の狙撃兵」のお話は、主にGROUNDLESSの世界観紹介と主人公の生い立ち、そして狙撃銃が自警団を上の存在に昇華させたというところがメインです。正直、この話だけでも十分に面白いので必見です。しかし実は、この話以降がGROUNDLESSを傑作足りえるものにしているので、是非是非続きも読んでいただきたいところです。


こういったミリタリーアクションって何があったかなーと思い出すと「マージナルオペレーション」とかそうでしたね。あれは軍隊を操る側で敵に打ち勝つものでしたので、ミリタリーものと言っても過言ではないかと。「マージナルオペレーション」も面白かったですが、正直な感想としては「GROUNDLESS」はそれを遥かに越えた面白さを持っていると感じます。

あとはゲームだけど「戦場のヴァルキュリア」も近いものがあるのかなと思ったり。ただなあ、「戦場のヴァルキュリア」は戦闘システムは面白いんだけどキャラ全員が戦争じゃなくてピクニックしてる感じに見えてダメだったんだよなあ。戦争の悲壮感を全く感じられなかったというか。そのせいで投げた記憶。

「GROUNDLESS」は確実に傑作といえる作品です。既刊は9巻ですが、読み進める内すぐに続きを購入してしまうでしょう。それくらい、一度読み始めたとき没入感は素晴らしいです。オンラインで少し読んでみて、続きが気になったら是非是非!


眠気覚め度 ☆☆☆☆☆


2巻、3巻の感想はこちら (第三穀倉地域接収作戦 - 初侵攻、新兵、暗闇の戦い、問題山積みの接収作戦)
10巻の感想はこちら(政治家と軍人)