「辺獄のシュヴェスタ」で恐ろしいほど上手い構成作品で連載デビューした竹良実が描く傑作読切が「不朽のフェーネチカ」です。作者買いするので辺獄のシュヴェスタで一気に惚れてしまった自分は当然の如くこの作品を読みました。もうホント、面白い。85Pで終わってしまうのが勿体無いくらい話がしっかりしていて読ませてくれます。

テーマは現代の聖母と呼ばれており「列聖」間違いなしと言われているマザー・ドロテアと、その過去を探るジャーナリストの話となります。「列聖」とはローマ教皇庁の審査によって「聖人」と認められることです。「聖人」は病気の治癒等の奇跡を起こし、その聖なる遺体は死後も朽ちることがないと言われています。この「朽ちることがない」というのが「不朽のフェーネチカ」というタイトルに掛かっているわけですね。

そんなマザー・ドロテア、当然相当なやり手であり、内心にとある野望を抱いているのです。聖母なのに。いや、その為に聖母になったとも言えましょう。そんな闇を暴こうとしているのが、ジャーナリストのアレハンドロです。このアレハンドロが、マザー・ドロテアの過去を探るためにマザー・ドロテアの孤児院に侵入したり過去を知るものに接触して情報を収集していくのです、それがやはり面白い。

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こんな良い顔する婆さんがやり手じゃないわけがないんですよ。カッコいいジジババが出る作品は間違いなく面白いのです。

そんな過去を探ると、直近では麻薬王の説得していたり、30年前の独裁政権下の影響で紙が買えない新聞記者に紙を提供したり、大胆にそして確実に聖母としての実績を重ねていったことが見えてきます。そうして次々と過去を辿っていくと、マザー・ドロテアの出身がソ連だということに行き着くのが非常にグッド。そこから、どうして聖母を目指すに至ったのかが語られていくのですな。

その過去がまたなかなか読ませてくれる内容で、、、人間の思いというのはこうも強いものなのかと思わせてくれる、心に響く展開なわけですよ。そのあたりの心理描写が実に上手い。

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人間の成長がはっきりと感じられるこういった表現は大好きです。絵だけで確実に伝える技術というのは本当にいいものですな。このシーンだけで色々と読み取れることが出来てよきよき。こういう作品ホント素敵。こちらとしては黙って固唾を呑んでその心理を読み取ることしか出来ません。

いいですなあ、過去を持つ女。心に野望を秘めた強い女性。聖母というのはあくまでも手段、ただただ己のためだけに、周りを「列聖」になるための道具として扱ってきた女性。エゴそのものが彼女を突き動かしているというのが実に素晴らしい。こういう人間臭い作品が本当に面白いと思うのです。


「不朽のフェーネチカ」は珍しく読切そのままで電子コミックになっています。普通はこういうの短編集に入ったりすると思うのだけど、やはりそれだけ評判が良いということなのではないでしょうか。そのおかげか300円ほどで読めるので、手に取ってみるのは気楽に出来てオススメです。内容は90ページほどですが十分満足いただけるかと。


眠気覚め度 ☆☆☆☆