「空腹な僕ら」はゾンビものです。ゾンビものというのは昔から人気のある設定だし、異世界ものと同様に読者の共通認識を持ちやすいので非常にすんなり設定に入れるのが魅力ですね。最近では10年ほど前のウォーキングデッドを皮切りに次々とゾンビ作品が出てきたイメージがあります。ということはどこかで差別化をしないと頭ひとつ抜け出ることは難しいです。

この「空腹なぼくら」はゾンビの中で偶然出現した、人間の意識があるゾンビが主人公のお話です。
20210603_000
ゾンビは生きた人間しか食べないかつ、ひたすら獲物を求めて徘徊しています。ただ、この主人公はゾンビの特性を自身の経験から確認し、空腹は感じるけれども別に食べなくてもいられるということに気づきます。更に生きた人間以外を食べてもその空腹は満たされません。なので空腹を満たすには生きた人間を食べるしかありませんが、食べなくても飢え死ぬことはないのです。そもそもゾンビが死ぬというのは正しいのかどうかも謎です。脳が潰されたら活動が停止する、が正しいのかな。

しかしここで人間を食べつくすという問題が発生します。

空腹を満たすためには生きた人間を食べる必要がある。しかし生きた人間はもういない。ではどうしたらいいのか。増やせばいいのです。それに必要なのは人間の男女。その2人を見つけ出し、2人に子供を産ませて増やす。そんな途方も無い年月を掛ける計画が始まります。
20210603_002
ゾンビは死なないし腹も減らないからこそ出来る計画ですね。そもそもゾンビ世界で人間を増やそうとするのがゾンビ側というのがなかなか無い設定かなと。人間側がゾンビ世界でなんとか生き残っていこうというのが基本ですからね。加えて、何年も先を見据えてのストーリーはあまり見ない気がします。まあそれやっちゃうと毎回キャラも変わっちゃいますし。年代ジャンプものといえばジョジョが有名ですな。誰もが知る傑作。ゾンビの年代ジャンプものも何かで読んだことあるような気がしますが思い出せないなあ。

1巻ではまず男女を探すところから始まります。男の方は1話から確保している引きこもりニート。20210603_004

そして遂に見つけた女はなんと元カノ。
20210603_003

この2人を引き合わせて生殖させるというのが大きな流れです。どうしようもない男だが、食い尽くしたと思っている人類で唯一見つけた男。そしてゾンビ世界の中で健気にも逞しく生き抜いてきた、未練もある元カノ。こんな男に元カノを抱かせるのか、いいやもう自分は人間ではない、空腹を満たすために人類を増やすのだ、という葛藤。悩めるゾンビ。この2人と1人とゾンビはどうなってしまうのか。思いついたから書いたけど悩めるゾンビって凄い言葉だな。

先のことを少しネタバレしてしまいますが、年代ジャンプものと前述した通りで子供が生まれます。すると今度はこの子供を成長させて更に生殖して増やすということを続けていくわけです。長い歳月を掛けて。そんな子供に情が沸くのは必然。しかし増やすことしか考えてないゾンビに育てられたらどんな子供に育つのか、勿論一般的なまともに育つわけもなく。そしてまた葛藤。悩めるゾンビですなあ。

そんな子供の成長も見守ることが出来るゾンビ年代ジャンプものがこの「空腹なぼくら」なのです。着眼点が非常に面白く、ゾンビの葛藤や育っていく子供の成長や倫理観を上手く描いているのが非常にグッド。ゾンビものとしてはゾンビパニック要素は強くないので、ゾンビものを期待して読むと肩透かしかもしれないです。どちらかというと父性と倫理と子供の物語の方が近いかな。


眠気覚め度 ☆☆☆☆