こいつは果たして本当に福の神か?

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衝撃的な時間静止サスペンス「刻刻」を描きあげた鬼才、堀尾省太の新作はある島にまつわる福の神をテーマにした「ゴールデンゴールド」です。

読み始めたらページをめくる手が止まらない止まらない。続きが気になって気になってしょうがない。次のページをめくるとどんな絵が映し出されるのかが簡単に想像出来るのに、いや、できるからこそめくりたくない気持ちもあるという矛盾。これこそ本当に面白い漫画と言えるでしょう。ページをめくるだけでここまで気持ちが盛り上がる見せ方ってのもなかなかないと思います。

雰囲気も基本は「刻刻」と似たような感じで展開するので、空気感も似たようなものです。落ち着いた雰囲気で、実に現実世界に近い空気感。そこに存在する明らかな異質、その融合の世界観がたまらない。

ストーリーは、島に上記画像のような彫り物が海岸に落ちており、それを何故か拾い洗剤で綺麗にしたのはいいが、気味が悪くなり結局神社の祠に置いてみたところ顔を上げたら目の前にコレがいたという恐ろしい展開。前述しましたがこのページをめくる時が一番躊躇しました。何が出てくるのか想像できたのにそれをあえて見たくないという気持ちが入り混じる感じ。うーん、楽しいねー!!

これだけ気持ち悪い上に現実にありえないことが目の前に起きているのでそりゃ逃げますわな。逃げる道中も色々あり、最終的にはまくことが出来ました。やったぜ!!





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なんで家にいるんだよオオオおおおおおおおおおおおお!!!!!!!

ここも予想は出来るけどめちゃめちゃびびるわ!!加えてばーちゃんが何事もなくもてなしてるのもすごいわ!!!
いやー、ここは笑った。笑うようなシーンじゃないんだろうけど、あまりにもセオリー通り過ぎて、その潔さに感服。

その後はこの福の神(作中でも便宜上こう呼ばれるようになった)が来てからの生活変化について進展していきます。それは福の神がいるところ(店)には客が多く来るようになるということ。この主人公の家は民宿を営んでいますが、客が来たのは10年振りという始末。その宿に次々と来るわ来るわの予約連絡。加えて商店も細々とやっていますが、福の神が来た日は店中の品物が完売。つまり本当の福の神なのではないかという疑念が浮かび上がります。

その調子で商売繁盛しまくるばーちゃんは金に目がくらんだのか経営の拡大化を今更ながら考えるようになっていき実際に行動を開始します。果たしてその思考は真っ当なものなのかどうか。

というのも、この作品の舞台はコンビニすら無い小さな島です。小さな島とはいえコミュニティがあり、商店街があり、お互いの共存によって成り立っています。それがこの福の神がもたらす効果により、島中の貨幣が主人公の家に集まるということに徐々になっていくのでしょう。その果てに考えられるのは主人公のばーちゃんによる独占状態、商店街やコミュニティの崩壊です。お互いが同じような境遇であったからこそ成立していた関係であるのに、そこにひとつもふたつも頭が抜けた人物が君臨することになります。必然的に全ての物事はその頂点に集まることになるでしょう。つまり王の誕生、封建社会の成立です。

まあそれは本当の最後の時点でということになりますが、現実でもしばしば問題視される「大型スーパー設立による商店街の閉鎖」ということは十分に考えられるでしょう。その先にあるのは頂点に対する反発と暴動です。

どうしてそこまで想像出来るのかというと、そもそも第1話の最初のシーンで明らかに過去に何かが原因で争いが起きたことを示唆してるんですよ。



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しかも死体全部の顔が福の神と同じ


気持ち悪いなーと思うことでしょう。実際そういう嫌悪感を沸かせるためにこのような表現となっていると思います。これだけを見ると日本人形に魂が宿ったみたいで怖いです。

さてさて、この顔にどこか違和感を感じなかったですか?実は既にこれまで貼った画像にその違和感の元があるんですよ。



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ばーちゃんと福の神の顔って似てませんか?





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似てませんか?


んんっ?これはまさか、冒頭であったから、いや、うーん、島の子孫だから似てるとか?と色々考えました。ええ、考えましたとも。つまりそういうことなのかなーと。






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うわああああああ!!!!つまりそういうことなんだな!!!!!


これも予想的中でゾクッとしたわー。全部軽く伏線張ってあって、わかりやすくリードして、さりげなく出してくる感じ本当に上手い。ドキドキ感、ワクワク感、そして恐怖感を一斉に味わえるなんてなかなか無いですよ。刻刻ではこういうのはあまり無かったので新しい手法を取り入れたということでしょう。極めて自然に読み手を作品の世界に引き込むその技術、素晴らしい。

というわけで、ゴールデンゴールドはちょっと奇妙で日本人形嫌いな人には読みにくいかもしれませんが、ドキドキありワクワクあり人間臭さありこの先ドロドロの展開ありそうと最高に期待できる作品です。これは次も要チェックです。
ついでに「刻刻」も最高に面白いので是非!「刻刻」は全8巻なので読みやすいぞ!


眠気覚め度 ☆☆☆☆☆