来世を巡る輪廻転生、因縁のしがらみに終止符を討つ

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この作品を読み終えた後、その読後感の良さにただただ癒され、余韻に浸るうちに週末が終わっていました。そんな素敵な気持ちにさせてくれたのがこの「スピリットサークル」です。

作者は水上悟志、「惑星のさみだれ」や「戦国怪狐」の作者の最新作となります。(とはいえ、戦国妖狐と同時連載で、最終回の時期も最終巻の発売日も一緒だったんだけど) もともと「惑星のさみだれ」という素晴らしい作品を読んでからのファンなのでどうしても若干贔屓目に見てしまうところはあるのですが、それを差し引いてもこの「スピリットサークル」はとんでもない作品でした。「惑星のさみだれ」とはまた違った方向の話ですが、それと同列の評価をしてもおかしくない名作です。

「スピリットサークル」のテーマは「輪廻転生」と「他生の因縁」。主人公の桶屋風太はこれまで転生元となった七つの人生の追体験をすることとなります。それぞれの人生では性格も違えば人生の過ごし方も全く異なり、前世というものは単なる生まれ変わりではなく、全くの他人の人生であることを実感します。

しかし面白いことに、それぞれの全く異なる人生にも関わらず、その人生における人間関係、つまり周囲にいる人間は立場や関係は違えど常に同じ人物がいることとなります。他人の人生だけれども、それぞれの人生に対する影響の仕方はいつの世代も変わりなく、その相手も同じように輪廻転生をしていてお互いを影響し合っているということになります。この大前提を元に、7回の追体験を経て現代の桶屋風太となるわけです。

この設定が本当に素晴らしい。序盤は人間関係もあまり見えていないのでそんなに感動は無いのですが、毎回、全ての人生でお互いが関係しあい、またその立場や関係性が変わりながらもお互いを必要としているというのが、人生を読み進めれば読み進めるほどに深みのあるものになっていく。それに伴い、話も段々と核心に近づいていき、最後には綺麗に収束するという表現技術はさすがの一言です。これは本当に凄い。


実はこの作品、最初の1、2巻を読んだ時の、フォン、ヴァン、フロウあたりの話はそこまで面白いとは思っていませんでした。方太朗になると展開が面白くなってきて、ラファルの話で一度最高潮に盛り上がります。その後閑話休題で風子の話が展開され、最後の大物、話のメインとなるフルトゥナの話が本当に読む手が止まらなかったです。

簡単に表すと、

- フォン : ふむふむ(コーヒー片手にながら読み)
- ヴァン : なるほどなるほど
- フロウ : うん、やっぱ悪くないねこの漫画
- 方太朗 : えええ、最後こんな終わり方しちゃうの?こんな悲しいことってあるかよ。。。(だいぶ感情移入している)
- ラファル : 設定も凄いけど最後の判断がすげえ!!なんだこの話、メチャクチャ面白いぞ!!
- 風子 : ??? 閑話休題ってこと?伏線?
- フルトゥナ : おおおおおお!!これがいわゆるマッドサイエンティストってことか!!!自分のことしか考えてない狂人っぷりも読んでて面白いし、それによる展開も常軌を逸していてぶっ飛んでるし、続きが気になる!!!

という感じですね。
少しずつ少しずつ、徐々に徐々に話が盛り上がっていって、最後に見事に収束させた技術はひたすら感動しました。

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やっぱり何よりもフルトゥナの天才ぶりと、その狂人っぷりの表現が見事でした。単なる頭の良い少年というスタート地点から、その興味をひたすら研究に没頭することで消化し、遂には人を越えて神と同等の力を得ることになる流れは鳥肌モノです。本人には狂っている自覚が無いことが実にリアルで、如何に傲慢で、如何に合理的で、そして如何に排他的かを的確に表現しています。よくこんなキャラ作り上げられたよなあ。




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七つの人生の追体験が完了してからの現代、桶屋風太としての展開も見事です。あんなにも戦うことを拒絶していて、果てには淡い恋心さえ抱き始めた相手と殺しあうことになってしまうという皮肉。それをああいった形で展開して、最後には大団円で収束してしまう流れが本当に読んでいてて爽やかで気持ちが良い。人が死ぬとか、辛い別れがあるとかでは無いのに、決して涙無しでは読み終えることの出来ない最後の表現が実にニクい。何回読んでもいい。何回読んでもその流れに感動して癒される。既にある手法ではあるのだろうけど、どうしてここまで心に響くのか。本当に、本当に良いラストだった。



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最後にはこんなびっくり展開も見られるしね!!


そしてそして、読んでいただきたいのはカバー裏にびっしり書かれた後書きですよ。これ、Kindle版とかではカバー裏が無い可能性もありますし、そもそも作者本人が電子版だと字が小さくて読めないかもと言っていたので紙版も買ったのですが、Kindle版でも問題無く読めました。iPhone とかのスマホで読むのは厳しいかもしれませんが、PCやタブレットなら問題無く読むことが出来るでしょう。

その後書きで書かれていた衝撃の事実

「連載の中盤くらいまで、フルトゥナの人生はどういうものだったのか決めてなくて、毎月の担当との打ち合わせで「あいつ一体何をしでかしたんだ」と頭をひねりあった」

衝撃の連続だったフルトゥナの設定は、中盤までは全然考えられていなかったことが判明!その状態からフルトゥナの話とかラファルの話を考えたのって凄すぎるだろ。。。どうやったら後付でこんな話思いつくんだよ。。。


というわけで、「スピリットサークル」は本当に面白い作品でした。全6巻なので読むのも集めるのも楽ですし、なんといっても何回読み直しても面白い。ただ惜しいのは、1巻や2巻だけ読んでもまだ面白さが盛り上がる前なのでそこで切っちゃう人が多そうというところでしょうか。是非とも、3巻以降、特に4巻のラファルの話からはページをめくる手が止まらなくなるはずなので最後まで読んでいただきたいものです。


眠気覚め度 ☆☆☆☆☆