ガンの特効薬になる殺人コオロギは人類の希望か、それとも絶望か

面白いのにいつの間にか打ち切られていて続きが読めなかった「モンキーピープル」がKindleの電子書籍で復活しています。
しかも連載の続きが読めます。 
つまり電子版で奇跡の連載復活を遂げたのです。

ちょっと手元にコミックの6巻が無いので確認できないのですが、この6巻の後半からコミック未収録の内容な気がします。
(コンビニ廉価版の内容と同じなのでしょうか?詳細求む!!)
また、予定の続刊7巻以降は完全書き下ろし新作ストーリーが読めるとのことです。(6巻の作者あとがきより)

この作品、絵柄も古臭くてあまり人気が出なかったのか、それほど評判自体を聞いたことがありません。
ですが、私はこの作品を大いに面白い作品だと主張します。

おおまかなストーリーは、ジャングルの奥地で見つかった肉食の大型コオロギ(電子版ではクリケット)がガンおよびエイズ等の様々な特効薬になるという発見と同時に、このコオロギは食欲旺盛であっという間にネズミ、ネコ、犬、果てには人間まで食べつくす程の凶悪性を持っている上に、人間は噛まれるだけですぐに心筋梗塞で死んでしまうという力を兼ね備えています。その為、上記の人類の希望となるか絶望となるかということになるのです。

ですが、あくまでこれは大筋のストーリー。これとは別に、少年犯罪、犯罪者の擁護、死刑反対の声明という、もうひとつのテーマを平行に扱っています。
筆者、釋英勝の代表作はこの他にハッピーピープルという作品があるのですが、大体の話の筋は同じだったりします。

それが上記の犯罪問題のような社会風刺を必ず入れ、現代社会の問題点について大きく斬り込むということ。
(コミック版1巻の表紙が赤ん坊が包丁を持って地球を刺しまくるという絵だったりするほど)

特に、ハッピーピープルでもこのモンキーピープルでも共通しているのは「少年犯罪」の扱い。
近年でこそ、凶悪少年犯罪が起こる度に、少年法による刑罰の軽さに対して厳罰化の流れがありますが、
ハッピーピープル連載当時は1990年代前半なので、ひたすらに作者の怒りをぶつけて描かれています。(これはハッピーピープルの作者コメントから読み取れます)

例えば、親父狩りといわれる少年達による集団強盗および強盗殺人。犯罪を犯した少年達には慈悲や改心の心など一切無く、被害者は泣き寝入り、はたまた直接の被害者は死に至ります。
また、その遺族の無念はすさまじいものとなります。死刑という制度がある日本では制度の是非はあれ、少なくとも遺族の無念を晴らすひとつの手段として死刑というものが存在するわけです。
ですが、相手は未成年。少年院に送られ、未来有る子供として更生するための生活という一般の子供と大差ない教育を受け、ゆくゆくはぬくぬくと社会に復帰していきます。強盗、殺人を犯したという経緯を持ちながらも、それに影響を受けることなく、悪びれずに。
そんな極悪な犯罪者を扱ったテーマが多々あります。それがハッピーピープル、モンキーピープルの一部です。

また、それに対して「死刑反対」「未来ある子供は更生を」と訴え、行動する人々も多くいます。
もちろん、良心、性善説を元に考えればそうあるべきだという考えは納得することは出来ます。
ですが、いざ事件に巻き込まれた遺族の作中の言葉を引用するなら、

「無責任に犯罪者を擁護する事がどんな事か、その言動に対する社会的責任はどういうものか、
世間や偽善者どもに思い知らせてやらなければ私の復讐は終わらないんだ!」

nemusame_20151203_000


ということになります。犯罪者に温情をというのは偽善。凶悪犯罪にはそれに対する適当な刑罰を。
筆者がハッピーピープルの頃から主張しているこのことはずっとぶれていません。


そういうわけで、コオロギを巡る展開のほかにも、社会問題についても色々と考えさせられる良作となっています。
だけど、絵柄が受け付けない人にはやっぱり厳しいのかなー。それさえ越えられれば、話も読みやすいので凄く良い作品だと思います。お試しあれ!


7巻の感想はこちらから (モンキーピープル 7巻 - 殺人コオロギの大量繁殖、美杉の復讐の結末)

眠気覚め度 ☆☆☆